「映画の精神医学」推薦
精神科研修医必携 精神医学の本
 まずはこの10冊を読め !!

 毎年、春になって精神科に新入医局員が入ってくる。
 そして、毎年必ず聞かれる質問がある。
「精神医学について勉強したいんですが、何か良い本があったら教えてください」 向学心の強さに関心させられるが、私も若かりし頃、指導医に同じ質問をした記憶がある。
 さて、毎年同じ質問に答えると、さすがに嫌になってくるので、ここに推薦図書を10冊選んでみた。
 その選考基準は、
1) まずこれから精神医学を志すものとして、買っておいて損はないもの
2) 精神医学のスタンダードな知識を一通り身につけるために有益な本
 ということになる。
 当然、ヤスパースとか精神医学の古典も読むべきだが、そうした本は一読の価値はあるが、「必携」、すなわち座右に常においておく本ではないと思う。

 また、必ずしも精神医学を専門としないまでも、「最低限の精神医学の知識をおさえておきたい」という研修医にもお薦めできる本である。
 

(1)カプラン臨床精神医学テキスト
DSMー4診断基準の臨床への展開

著者:ハロルド・I.カプラン (編集), ベンジャミン・J.サドック (編集),
出版社:
メディカル・サイエンス・インターナショナル
税込価格:15750円
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カプラン臨床精神医学ハンドブック―DSM‐IV‐TR診断基準による診療の手引
著者:ハロルド・I.カプラン (編集), ベンジャミン・J.サドック (編集), 出版社:メディカル・サイエンス・インターナショナル
税込価格:7140円


Kaplan & Sadock's Comprehensive Textbook of Psychiatry (Comprehensive Textbook of Psychiatry, 7th Ed)
著者:Benjamin J. Sadock, Virginia A. Sadock
出版社:Lippincott Williams & Wilkins
税込価格:35762円

 

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 まずは、カプランの教科書である。
 精神科で教科書といえば、カプランである。
 当然、私が紹介するまでもなく、精神科医であれば、持っていて当然の本である。持っていなければ、それはモグリの精神科医だ。
 と言いいながら、私はカプランを持っていない。
 いや、正しくは日本語版のカプランを持っていない。
 私が持っているの英語版である。

 英語版は第7版だが、日本語版は版が古いので、最新の知見は網羅されていないのが最大の欠点である。したがって、この第7版の英語版を常備してあると、心強い。まあ、値段が高いので医局か病院に一冊あればいいが、ないと不便だ。
 まあしかし、研修医に最初から英語版で勉強しろ、とは酷な話。

 いや、そのぐらい熱心にやって欲しい。本当は。
 私がなぜ英語版のキャプランしか使っていないのかというと。それは私が医者になったばかりの頃は、キャプランの翻訳など出てなかった。したがって、英語を読むしかなかった。なんと、今の若者は恵まれているのだろう。

 そうしたことを考慮して、お薦め順としてはとしては、
「英語版」、「カプラン臨床精神医学テキスト」「カプラン臨床精神医学ハンドフック」

の順である。

 「ハンドブック」は要点だけまとまっていて、非常に使いやすいし、わかりやすい。したがって、心理士、看護士などのコメディカルにもお薦めである。しかし、精神科医たるともの、ハンドブックだけを読んで、わかったようなつもりになるのは、考えものだ。精神科医以外の医師、あるいはスーパーローテションの研修医も、「テキスト」では詳しすぎるという人には、「ハンドブック」でもいいかもしれない。

(2) ICD-10「精神・行動の障害」マニュアル
著者:中根 允文, 岡崎 祐士
出版社:
医学書院
税込価格:3360円

(3) DSM-W-TR精神疾患の分類と診断の手引
著者:高橋 三郎, 大野 裕, 染矢 俊幸 American Psychiatric Association,
出版社:
税込価格:3990円

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 ICD-10とDSM-Wは、精神科で最も、そして日常的に使われる診断基準である。
 この診断基準がなければ話にならない。 
 この二冊の本を持っていない精神科医はもぐりだ。間違いない。
 とりあえず研修医にとっては、常時待ち歩かなければ行けない本である。ある程度、診断基準が頭に入ってしまうまでは、手元から離せない。
 まず、主要な疾患の診断基準については、覚えてしまうことが必要である。
 そうでないと、患者との面接もままならない。診断基準の各項目を念頭におきながら面接を進めれば、診断面接はスムーズにすすむだろう。
 とにかく、もっていないと話にならない。

(4) 現代臨床精神医学
著者:大熊 輝雄   出版社:金原出版
税込価格:8085円
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 「カプラン」のテキストは必携だが、どちらかという辞書に近い。わからないことを調べる本である。したがって、通読する本ではない。ちなみに、私は当直の時間を使って通読したことがあるが・・・。一度通読しても損はないが、かなりの労力と根性を要することは確かだ。
 ということで、通読できる教科書。そして、精神疾患の概要を把握できて、わかりやすい教科書といえば、この大熊先生の「現代臨床精神医学」である。
 これは、精神科教科書の定番中の定番である。
 しかし、これを医者になってから買うようでは、先行きが心配である。
 全ての医学生のための精神科の教科書として、お薦めできる。
 したがって精神科医になってから買うのではなく、学生のうちに買って勉強して欲しいという、そんな日本語の精神科教科書の定番である。

(5) やさしい精神医学
著者:西丸 四方, 西丸 甫夫
出版社:南山堂
税込価格:2730円
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「現代臨床精神医学」でもまだ通読できないという人には、この西丸四方先生の「やさしい精神医学」を薦める。これは教科書であるが、完全に読み物として読める。他の精神医学の教科書と大きく異なるのは、図版や写真も多いということ。つまり、とてもわかりやすい。特に統合失調症の部分は、非常に良く書けている。
 精神医学の入門書として最適である。 
 そしてこの本は、心理士、看護士などのコメディカルにも非常にお薦めである。とにかく、文章がわかりやすい。したかがって、医療関係者以外の普通の人が、精神医学を勉強したいという人にもお勧めである

(6) 精神医学事典 縮刷版

著者:加藤 正明  出版社:弘文堂
税込価格:6825円

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 精神医学では、「用語」というのが非常に重要である。「精神医学用語」を正しく理解しないと、おかしなことになっていく。そして、その基礎をかためるのは、精神科医に成りたての時が一番良い。
 はっきり言って、この「精神医学事典」がないと、日本語の論文が書けないし、学会発表もできない(私の場合)。
 単純な用語でも、意外と厳密な定義を知らなかったりして、学会発表の場で恥をかいてから、きちんと調べるようになった。
 この「事典」に関しては、今でも使っている。
 精神医学関係の文章を書く時に、定義を紹介するのに、使ったりする。例えば「トラウマとは、・・・」と書く時、とりあえず「精神医学事典」の表現を引用しておけば、誰も文句は言えないだろう、そんな感じ。
 国語辞典でいう「広辞苑」みたいなものだ。
 多分、精神医学関係の本で、私が一番使っている本だと思う。

 本当は、分厚い「精神医学事典新版」の方がいいが、これは高価だしでかいので、医局か病院に一冊あれば良い。自分で買うとしたら、「縮刷版」の方が、ハンディで使い勝手が良い。
 ただ、「新版」でも、10年、20年使えるので、それを考えると実は安いのだが・・・。

(7) 精神科診断面接のコツ

著者:神田橋 條治  出版社:岩崎学術出版社
税込価格:3150円

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 まず、精神科医になりたての頃。
 患者さんと二人で面接するわけだが、何を聞けばいいのか、全くわからない。
 そんな場面に遭遇する。
 何を考えて、どういう道筋で面接を構成していくのか?
 その大きなヒントを与えてくれるのが、神田橋先生の「精神科診断面接のコツ」である。
 まず、読みやすい。そして、わかりやすい。
 一日で読める。そして、その日から、もう実践できる。
 精神科面接、心理面接のHOW TO 本は、たくさん出ているが、入門書ということで、これほどためになる本はないと思われる。また、ある程度経験してから、この本を再度読み直して見ると、その文章の深い意味、本当の意味を痛感することになる。
 面接の入門書でありながら、ベテラン精神精神科医にとっても、有益な一冊である。

 
 神田橋先生の他の著作もお薦めです。

追補 精神科診断面接のコツ
精神療法面接のコツ
精神科養生のコツ

(8) 向精神薬療法ハンドブック改訂第3版

著者:風祭 元 出版社:南江堂
税込価格:8400円

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 さて、医師国家試験に合格し、医師免許が到着する。すると、薬を処方できるようになる。処方箋を書くとき、「ああ、本当に医者になったんだなあ」と実感する。
 しかし、実際の処方は、そう簡単なものではない。
 薬の種類、投与量、適応、薬理作用、副作用など、学ぶことが多すぎる。
 向精神薬に関しても、非常にたくさんの本が出版されている。
 一概に、どれが良いといいにくいのだが、とりあえず精神科の諸学者には、それらの最低限の必須知識が網羅された、この「向精神薬療法ハンドブック」をお薦めする。
 薬理作用や処方例などが書かれているのは当然のことだが、私がこの本が好きな理由は、薬の副作用について非常に詳しく、相当のページ数をとって記載されている点である。
 精神科の諸学者として、薬を処方して、一発で治らなくてもそれは構わないだろう。増量したり、別な薬に変えていけば。
 しかし、副作用はいけない。患者さんが苦しむし、悪性症候群など命にかかわる副作用もあるわけだから、まず投与量とかそういうことよりも、精神科研修医は薬の副作用について習熟すべきだ。
 そういう意味で、この本には副作用についての過不足ない知識が網羅され、またわかりやすく説明されているのだ。
 私が、精神科医一、二年目の頃は、相当にお世話になった本である。

 薬物療法関係で、持っていて損のない本は、以下の二冊。
 
カプラン精神科薬物ハンドブック―エビデンスに基づく向精神薬療法
著者:ハロルド・I.カプラン (編集), ベンジャミン・J.サドック (編集),   出版社:
メディカル・サイエンス・インターナショナル
税込価格:6510円

 エビデンスにもとずく薬物療法を学ぶホントしては、スタンダードであろう。 
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精神科薬物療法ハンドブック
著者:George W. Arana, Jerrold F. Rosenbaum  
出版社:
メディカルサイエンスインターナショナル
税込価格:5040円

 最近は、薬物療法はアルゴリズムとかガイドラインとかがはやりだが、どうしてもそれでも効かないという場合がある。
 そして、サードチョイス、あるいはそれ以下の選択枝も書かれている。その点で、一般的な治療で困った時の難治例の薬物量を考える時に、私は参考にしていた。
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(9) 臨床脳波学

著者:大熊 輝雄 出版社:医学書院
税込価格:18900円

 精神科たるもの、この本も大体持っています。
 脳波の教科書もたくさん出ていますが、わかりやすく、それでいて全てが網羅されているこの本は、精神科医う必携であろう。
 もちろん、精神科のみならず脳外科、神経内科、小児科など脳波を読む全ての医師にお薦めする。

(9) MGH総合病院精神医学マニュアル

著者:ネッド・H・カセム   
出版社:
メディカル・サイエンス・インターナショナル
税込価格:10185円

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 総合病院の精神科の役割として、他科への往診、身体疾患を有する患者がテイルす精神症状の問題。すなわち、コンサルテーション・リエゾンは、不可欠なものである。リエゾン治療に関して、包括的にそして過不足なく、マニュアルとしてまとめられているので、非常にわかりやすく、使いやすい。
 精神科医研修医にとっては必携の一冊と思われるが、内科、外科などの身体科の医師にとって、自分の患者が精神症状を呈した時のとりあえずの対応を知るために、大いに参考になるだろう。また身体科に勤務する、看護師などのコメディカル、癌患者、その他の身体疾患を有する患者のカウンセリングを担当する心理士なども、大いに参考になるだろう。 
 米国のプライマリ・ケア医を対象とした「心の問題」に対する診療マニュアルを翻訳した、MGH「心の問題」診療ガイドもお薦めである。チェックリストやフローチャートを多用して、非常に分かりやすくまとめられている。
 プライマリ・ケア医および、精神科研修医に大いに参考になる。
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(10)
新薬で変わる統合失調症治療
本人・家族・専門家のためのガイドブック

著者:Peter J. Weiden, Ronald J. Diamond, Patricia L. Scheifler
出版社:ライフサイエンス
税込価格:2625円

 精神科の中でも、最も重要な疾患が統合失調症でしょう。統合失調症の患者さん、そしてその家族に病気の説明、今後の対応についての説明する機会はとても多い。そういう時に参考になめのが、このガイドブックである。最新の向精神薬の知見をもとにマニュアル的にまとめられているので大変わかりやすい。もともとが、患者さん本人、そして家族が読んで理解できるように書かれているので、当然である。私は、家族などから「統合失調症について学びたいけど、何か良い本ががないか?」と言われた場合は、この本を紹介している。 
 もっと詳しく、統合失調症治療について学びたいという場合は、統合失調症治療ガイドラインをお薦めする。監修は「精神医学講座担当者会議」、すなわち日本の大学の精神科の教授たちが、協力して作り上げた本である。ガイドラインといいうことで、精神科医であれば最低限この程度の知識は、おさえておきたい。

(11)
アルツハイマー型痴呆の診断・治療マニュアル

著者:日本老年精神医学会(監修)アルツハイマー型痴呆診断・治療マニュアル制作委員会(編集)
出版社:ワールドプランニング
税込価格:2950円

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 最近増加する痴呆症。痴呆症も、精神科医が毎日診察する重要な疾患である。

 しかし、きちんと正確に診断するためには、しっかりとした知識を要する。特に、初期の痴呆の鑑別は重要である。この本は、主に痴呆症についての研究を専門とする日本老年精神医学会が総力を挙げて編集した一冊であり、現在での痴呆症の診断と治療について、必要かつ最低限十分な知識が網羅されている。
 マニュアル式なのでわかりやすく、使い勝手がよい。持っていて、損のない一冊である。

(12) 精神医学の名著50
著者:福本 修(編集), 斎藤 環 (編集) 出版社:平凡社
税込価格3675円
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 研修医の推薦図書なのに「クレペリンが入ってない!!」、と古い世代の先生に叱られるかもしれない。当然、1年目の時に、私も読みました。ドイツ語で読めといわりなかっただけよかった。
 でも、それが今どれほど役に立っているかは、不明である。
 とりあえず研修医たるもの、まず日常臨床をしっかりとしなくてはいけない。
 ということで、上記のマニアル類を優先して読んで欲しい。とはいえ、やはり古典といわれる本の内容くらいは知っていないと恥ずかしい。
 この本には、主要な古典は全て網羅されている。
 そのエッセンスが短く、完結にまとまっているのだ。
 とりあえず、この本を目を通しておけば、精神医学の古典を読んだつもりになれる。時間の大幅な節約が出来る。とはいえ、やっぱり代表的な古典派読んで欲しい。これを読んで、ビビッと感じるものがあれば、そうした古典は、しっかりと全部読んで欲しい。