樺沢のシカゴ日記 |
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「7月4日に遊んで」 さて、最近はどうも「シカゴ日記」の更新ペースがすっかりダウンしてしまった。考えてみるとこの「シカゴ日記」は、私のアメリカ生活における不満のはけ口、ストレス解消の窓口となっていたようだ。 アメリカでの生活も、2ヶ月が過ぎで最近では生活も順調である。最近では、何が起きて驚かなくなった。 DSL回線がつながる予定日から2週間が経過しているが未だにつながっていないし、カスタマーセンターに苦情を言ってもそれでもつながらないこと。本当であれば、2回もらっているはずの給料を一回ももらっていないこと(明らかに、入金のミス)。銀行口座を開設したときに注文した小切手が6週間以上もたつのに、未だ届かないこと。 この程度の不手際は、ここアメリカでは当然のことだ。全くストレスにも感じない。むしろ順調すぎて、退屈なくらいだ(強がりだったりして)。 最近では、本当に驚くこともない。驚くことと言えば、バスに乗って、プリペイドカードの読み取り機が壊れているから、料金はいらないと言われたことくらいか・・・。 ということで、退屈しのぎに、独立記念日前夜祭のコンサートと花火大会に行ってみる。会場は、いつものグラント・パーク。「テイスト・オブ・シカゴ」もまだやているので、まずはそこで腹ごしらえ。 「テイスト・オブ・シカゴ」の混雑ぶりはピークに達している。このあいだ来たときよりも、はるかに混んでいる。10万人は超えているだろう。日没とともに雰囲気は盛り上がり、酔っ払いなんかも登場して、大声を張り上げていて、すごい活気である。今にも暴動でもおきるのではないか、と心配になる。案の定、喧嘩が始まって、警察に取り押さえられていた。観客は、もっとやれ、もっとやれ、とおもしろがって挑発していた。 コンサート会場は、「テイスト・オブ・シカゴ」とほぼ隣接している。コンサートが見れないと困ると思い、30分ほど前に会場に着くが、意外と混んでなくて拍子抜け。前から10列目くらいのイス席に座ることができた。とにかく、アメリカ人は音楽よりも、食べ物のようだ。 それでも、コンサート開始時刻には、相当の人手となった。 コンサートが始まる。 国家斉唱。全員起立だ。起立していない奴は一人としていない。ここで起立しないと、殺されてもおかしくない。そんな雰囲気すらただよっている。 そして、全員歌ってる。横の方にいたチャイニーズは歌っていないかったが、普通のアメリカ人は大きな声で歌っていた。 さすが、アメリカ。 さて、コンサートのはじまりだ。 最初の曲は・・・。 「蛍の光」 おい、もう終わりかよ。 いきなり、突っ込みを入れたくなる。 しかし、冗談ではなく、本当に「蛍の光」から始まったのだ。 次はドボルザークの「新世界より」。またまたま、コンサートは終わりか? という感じ。日本では、「蛍の光」と言えば、閉店か卒業式の曲、「新世界」は、帰宅しましょうという合図として小学校の下校の曲として使われる。何かさびしい、幕じまいの曲である。インディペンデンスデイなので、もっと景気の良い勇ましい曲が始まるかと思ったのだが、全く意外である。 「蛍の光」は、スコットランド民謡で、もともとの歌詞とは日本のそれとは異なる。「再会を祝い」「古き良き思い出に」として歌われるようだ。アメリカでも、年末の集会などで歌われたりするらしい。 ドボルザークの「新世界より」の「新世界」はアメリカを意味するようだ。ヨーロッパが「旧世界」で、移民により作られた新しい国アメリカが、「新世界」というわけ。チェコからニューヨークに移ったドボルザークが、故郷を懐かしんで作った曲だといわれる。 でも両方とも、インディペンデンスデイには似つかわしくないぞ。 何か、これって意味があるのではないのか? と思っていたら、その次はガーシュイン、アーロン・コープランド、コールポーター、バーンスタインといった、アメリカン・スタンダードが続いた。私の考えすぎだったか・・・。 次は、スクリーン・ミュージックだ。スクリーン・ミュージックを何曲か演奏するというのは、毎年の定番のようだ。しかし、今年の二曲は「ハリー・ポッター」と「ロード・オブ・ザ・リング」だ。 最近ヒットした映画といえばその通り。しかし、二作品とも、原作はイギリス人であることは周知の事実だ。「ハリー・ポッター」は、ファンタジーではあるが、イギリス、スコットランドあたりを舞台としている。独立記念日とは、アメリカからイギリスの独立を勝ち取った日である。その祝賀のコンサートで、敢えてイギリス的色彩の強い映画を演奏するというのはおかしくないか? これは何かの皮肉か? そう思っているうちに、コンサートは終わり、花火の始まりだ。 花火はオーケストラの音楽に合わせて打ち上げられる。花火師は音楽を聞いているのか、音楽が盛り上がるところで花火の打ち上げ数も多くなるので、非常な盛り上がりを見せた。 この花火大会は、相当な規模だ。メモリアルデイの時にも花火大会はあったが、その3倍くらいは上がっていただろう。 アメリカの花火は日本のものに比べて地味でシンプルと、どこかで聞いたことがあるが、決してそんなことはない。日本とほとんど同じものだろう。しだれ柳みたいな、シットリとした花火は少ない印象で、大音響を放つ派手な大玉が人気のようではあるが・・・。 |
さて、花火大会も中盤に差し掛かったとき、聞きなれた音楽がかかった。 「スター・ウォーズ」だ!! しかし・・・しかしだ。「スター・ウォーズ」のメインテーマではない。 何と、「帝国のマーチ」である。 |
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「帝国のマーチ」を知らない? 「電波少年」のT部長登場の時にかかるテーマ曲といった方がわかりやすいか・・・。何か恐ろしいものが忍び寄る、不気味で不吉なムードを演出する場面で、テレビで良く使われる。すなわち、フェスティバルには全く似つかわしくない曲だ。 普通は、どうみても「スター・ウォーズ」のメインテーマでしょ。こういうところで演奏するのは。まして、花火だもの。リズム的にみても、帝国のマーチは花火には合っていない。おかしすぎる。 このコンサートの選曲は意図的なものであると確信した。 ここで、この「帝国」、すなわちイラク戦争を仕掛け、現在もイラクで多くの軋轢を起こしているブッシュ政権の現アメリカ政府。これを「帝国」と例えて、批判しているのだ。 「蛍の光」は昔の良きアメリカに対する憧憬。今のアメリカではだめだ。もう一度「新世界」、新しいアメリカを作ろうではないか・・・ということではないのか?。 アメリカでは、反ブッシュデモや、反戦デモをしばしば見かける。明らかに、反ブッシュの雰囲気が強まっているのが実感できる。 本日は、シカゴ交響楽団による演奏であった。おそるべし、シカゴ・フィル。ちなみに、シカゴ・フィルの音楽監督である、ダニエル・バレンボイムは、イスラエルでタブーとされていたワーグナーを、イスラエル建国以来初めて演奏した人物。彼もユダヤ人であり、深い政治的意図があってのことらしい。この日の指揮は、バレンボイムの指揮ではなかったが、やはりこの選曲に、政治的なメッセージが含まれていても何の不思議はないのだ。 たかがコンサートではあるが、されどコンサートである。 この数万人のコンサート参加者で、このメッセージに気付いたものがどれだけいたかは分からないが、少なくとも私はしっかりとこのメッセージを胸に刻んだ。 当然、大統領選の選挙権はないけどね。 翌日が、インディぺンデンスデイだ。「7月4日に生まれて」あるいは「インディペンデンスデイ」といった映画の影響もあり、7月4日がアメリカのインディペンデンスデイ。独立記念日であることは、日本人にも知られるようになっている。 |
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