樺沢のシカゴ日記
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シカゴ
ダウンタウンの夕日
ミシガン湖クルーズの船より撮影


Vol.4 「樺沢、机を作る」
 しかし、机がないということは不便なものである。
 5月の上旬、数週間の間、このホームページを更新せずに皆さんに心配をかけたと思う。最初の1週間はネット環境がなかったが、すぐに職場からはインターネットにつながった。しかし、更新はなかなかできない。雑事に追われていたということもある。しかし最大の原因は机がなかったということだ。
 机がないと全く作業がはかどらない。最初は床に寝転んでパソコンを打とうと試みるが、3分で挫折。しょうがないので、ダンボールを机代わりにしてみるが、どうも体勢が悪く、すぐに疲れてしまう。15-20分が限界だ。不思議と、変な体勢で書いていると文章が浮かんでこない。そんなこともあって、机はすぐにネットで注文したが、その会社から「おたくのクレジットカードは使えません」という連絡が来るまで、2週間もかかった。2週間をまるまる無駄にした。通販だとクレジットカードが使えないので、オフィス用品専門店オフィス・テポットまで直接買いに行った。
 さて、今日は私の机が配達される日だ。仕事から意気揚々と帰宅。この国の人がきちんと配達日を守るのか不安である。しかし、オフィス・テポットの係りの人は、「水曜日に配達します」と明言していた。本当に配達されているのか?
 まず、家内に聞くと配達されたという。とりあえず、「やったー」
 寝室のドアを開ける。そこには、ダンボールが二つ。一つはイスが納まるサイズ。もう一つは、卓上ランプだ。
「おい、机はないぞ!!」
 見落とすはずもない。机は巨大だ。それに、部屋はがらんとしている。
 よく見ると、床に薄っぺらなダンボール箱がおいてあった。何だ、これは。その大きさは、机の天板の大きさと同じ。まさか、天板だけ先に送ってきたわけではあるまい・・・。天板にしては、厚みがある。20センチくらいあるのだから。数秒して、ようやくわかった。これは自分で組み立てるのだ。その部品の板が何枚も入っているから、厚くなっていたのだ、と。
 店で完成品の机を見た。それを見て決めたのだ。かなりしっかりとした机で、キットのように自分で組み立てるものとは、想像もできなかった。てっきり出来上がりの机が運ばれるとばかり思っていたので、ドアの大きさをメジャーで測って、部屋に入るかどうかまで確認したのだが、全くの徒労に終わった。
 しかし、大変なことになった。これを組み立てるとは。ただの板だぞ。しかし、私には一刻も早く机が必要なのだ。早く、ホームページを更新しなくてはいけないし・・・。とりあえず、ダンボール箱を開けようとする。しかし、重たい。箱が裏返しになっていたので、表を上に向けようと試みるが、持ち上がらない。多分、50kg以上はあるのではないか。渾身の力でようやく表返る。
 一つずつパーツを出していく。木は合板なのだが、そのせいもあり一枚一枚がやたらと重たい。ザッと説明書に目を通す。もちろん英語。ちなみに、スペイン語の説明も併記されているのでありがたい。ネジ回し一つでほとんどが組み立てられるようだ。こんなこともあろうかと思って、ネジ回しのセットは、日本から持ってきていた。
 現在18時。組み立てをスタートする。かなりでかいが、プラモデルを作っているようで楽しい。しかし、ネジの数がやたらと多い。のべ、50本以上はあっただろうか。30分経過。まだ、机の形状は見えない。何十箇所もネジ止めしたせいで、右手の握力が低下している。時々、左手も使いながらネジを締める。右手よりも左手の方が楽だ。私は左手の握力は相当弱いから、通常ではそんなことは考えられない。
 1時間経過。ようやく、天板に両足がついた。机らしい形になってきた。しかしその代償として、手には血マメができた。手に血マメができるなんてことは、十年以上経験していない。ネジ回しが持ち運びようで小さいのだ。本格的な業務用であれば、こんなことにはならなかっただろう。しかし、そんなものを日本から持ってくるわけにもいかず、シカゴのホームセンターに買いに行くのも結構遠い。とりあえず、今日完成しなければいけないのだ。
 1時間半経過。案の定、血マメが破れた。左手を主に使うしかないようだ。机の外観は整ってきたというのに、パーツはまだかなり余っている。引き出しのパーツのようだ。引き続き引き出しを作り始める。額からは汗が流れ始めた。こりゃ、いい運動だ。
 2時間経過。引き出しも完成し始める。もう少しだな。次は・・・引き出し部分の裏板をハンマーで打つ。おい、ハンマーはないぞ。日本から、何キロもするハンマーを持って来る奴はいない。先日、こんなこともあろうと思い、近くのとても大きいスーパーでハンマーを物色したのだが、ホームセンターではないので置いていなかった。チキショー。とりあえず、裏板はなしだ。裏板がなくたって、パソコンは打てる。裏板は、後日、ハンマーを購入してか打つことにする。
 2時間半経過。ついに完成だ。夢にまでみた、マイ・デスク。それにしても、すごい重さ。横になっているのを起こすだけでも大変だ。家内に手助けを依頼するが、手伝ってくれる様子は全くない。しょうがないので、渾身の力でようやく起こす。
 しかし、ガッシリとした良い机だ。そして、非常によくできている。というのは、ネジだけで組み立てていくのだが、部品同士が補強するような構造になっていて、組み立てた後は相当な強度を出すように見事に設計されているのだ。一方で、使わないネジ穴が何箇所かあったところを見ると、他の机とも部品(パーツ)が共通なのだ。実際、先日組み立てたテレビ台と同じ会社の製品だったが、ネジが同じ形だった。この机の設計者には、敬意を表する。
 ダンボールやらビニールやらが、かなりちらかっている。それらを片付けて、イスも組み立てる。驚くことに、イスも組み立て式なのだ。
 全てが完了したのは、21時。実に3時間を要した。疲労困憊した。集中してやっていたせいか、夕食を食べるのも忘れていた。非常に充実した一時であった。
 この机が、$170とは激安だ。しかし、その理由が今分かった。自分で組み立てるからだった、のである。アメリカといえば合理主義。あるいは、オートメーション、機械化といった能率主義を連想していた。しかし、資本主義の中で重要視される「低価格」を徹底追及した結果、こうした「手作業で3時間もかかって組み立てる机」に到達するわけだ。ある種の合理主義のゴールがここにある。非常に不合理ではある。
 アメリカ人は、この組み立てを楽しんでやるのだろうか? 以前、ドイツを旅行した時、フリーマーケットに行ったら、水道管や蛇口が単品で売られていて、それを手に取って興味深げに見ている客がたくさんいて驚いた。ドイツ人は一般的に、日曜大工やガーデニングが相当に好きなようだが、アメリカ人はそこまで好きではないだろう。安さの代償として、一種の義務として組み立てるのか? 私は、もし引っ越すことがあっても、この机はバラさないで、このまま持って行きたいと思う。こんな手間はもうコリゴリだ。
 さて、この新しい机で書き物でもしようかと思ったが、そんな余力は全くないので、寝るとしよう。
 (2004年6月9日)
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