樺沢のシカゴ日記
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シカゴを初めて観光した日
札幌ではまだ桜が見られなかったが、シカゴでは満開だった


Vol.5 「樺沢、寅さんになる」

 私は、シカゴでは結構便利な場所に住んでいる。というか、便利な場所を選んでアパートを決めた。職場から1ブロック。徒歩3分でつく。9時始まりなので、朝8時30分に起きても大丈夫だ。そして、ブルー・ラインの「ポーク駅」まで2ブロック。「ポーク駅」からは、ダウンタウンの「ジャクソン駅」までわずかに5駅(12-3分)である。職場にも近いし、電車の駅にも近くて、街に出るのも便利。この二つの理由で、今のアパートを選んだ。
 さてアパートに入居したその週末。アメリカに来て初めての週末。シカゴ観光でもしようと思い、近くの「ポーク駅」に足を運ぶ。
 ちなみに、シカゴの電車は、映画「逃亡者」などにも登場した高架列車である。一部は地下を走っている。音はうるさいが、外の風景画見えて、独特の雰囲気がある。
「ああ、駅が近いって便利だなあ」。
 すぐに、「ポーク駅」についた。しかし、何か様子がおかしい。ひと気がない。がらんとしている。ドアをあけようとすると、何と鍵がかかっているではないか。電車が動いていないのだ。そんなことってありえるか? いくら休みだからって、山手線が止まるか? 札幌の地下鉄南北線が止まるか? そんなことはあるまい。シカゴのど真ん中を通過し、オヘア空港を結ぶのがブルーラインだ。レッドラインと並び、最もメジャーな路線のはず。しかし、電車は動いていない。それは現実。
 アメリカ人は家族を大切にするというから、土日は外出しないで、家で一緒に家族と時間を過ごすのか? それとも自動車社会のアメリカ。電車が止まっても自家用車を利用すればいい。困る人は、そんなに多くはないのか?
 イスラエルに行ったときの安息日を思い出す。人口60万のエルサレム。しかし、金曜の日没とともに全ての商店は閉まり、バスもタクシーも運休となる。街の中はガラガラ。しかし、ここはユダヤ人地区ではない。
 ドイツの田舎町に行ったときのことも脳裏をよぎる。日本では、ショッピングの日曜日。しかし、その町では日曜日、駅のキオクス以外の全ての商店、スーパーが閉まっていた。
 しかし、ここは人口290万、アメリカ第3の都市、シカゴだ。土日に都市機能が停止するということもありえまい。
 どうも納得がいかない。今日は何か祝日か? いや、そんなことは聞いていない。何か工事でもやっている? いや、特に張り紙もなにも出ていない。人身事故? それなら、すぐに復旧するだろう。数秒間の間に、ありとあらゆる合理的な理由を思い浮かべるが、どれも納得できるものではない。
 しょうがないので、近くのバス停まで歩きバスを10分ほど待ってみる。土日だとバスの本数も少なくなかなか来ないので、結局タクシーに乗ることにする。タクシーでも、街まで$10はかからない。
おかしい。まだ、納得がいかない。翌日、同僚にたずねるが、電車が止まっているなど聞いたこともないという。何か、事故でもあったのではないか・・・と。余計に謎は深まるばかりだ。
さて、すぐに翌週の土曜日が来た。今週も遊びに行くぞ。「ポーク駅」へと向かう。しかし、やはり駅はしまっている。そんなはずはない。と思って、ドアをガチャガチャやっていると、中から警備員が出てきた。まずい。
 逃げるか? しかし、逃げたらよけい怪しい。
 「どうした? 何をしている?」と尋ねるので、「土曜日は電車は休みですか?」と聞き返す。
 「そうだ」と。やはり、土日は電車は休みなのだ。
さらに、「ここから2ブロック東に行くと、メディカル・ディストリク駅がある。そこから電車に乗れ」と言う。電車は全部は休みではないようだ。ブルーラインのこの線だけが運休なのか。ガーン。ショック。そんなバカな。
 後からわかったことだが、ブルーラインはYの字になっていて、私が利用しているのは「セルマック行」、もう一つは「フォーレストパーク行」。「ポーク駅」は、丁度Yの字に分かれた、一番最初の駅。「セルマック〜オヘア空港」は土日は運休。一方、「フォーレストパーク〜オヘア空港」は、24時間、365日動いている。「メディカル・ディストリク駅」は、「フォーレストパーク〜オヘア空港」間にあるため、土日もやっていた。
 私の家から「ポーク駅」までは5分、幸いにも「メディカル・ディストリク駅」までは15分の距離であった。ちなみに、私が運休について尋ねた同僚は、「メディカル・ディストリク駅」の利用者であり、シカゴに来て1年ほどしかたっていないため運休については知らなかったらしい。
 「ポーク駅に近くて便利」という理由で今のアパートを選んだのに、週末は運休だなんて。だまされた。それに関して、何の説明もない!! 説明義務違反だ。
 いや、シカゴ人にとってこれは常識なのか・・・。何か、釈然としない。
「ポーク駅」、あるいはブルーライン「セルマック行」の利用者は、私のようにメディカル・ディストリク(医療地区)関係者が多い。そこの勤務者、あるいは患者さん。イリノイ大学の学生がメインだ。したがって、利用者が著しく減る、土日は休みということらしい。
わりやすく札幌風に言えば、「学園都市線が土日休み」みたいなものだ。それにしても、思い切ったことをやる。いくら学園都市線が、北海道教育大や北海道医療大学の利用者が多いからといって、土日に運休にはならないだろう。本数が減るくらいなら納得するが、全く動いていないとは、考えもつかない。
 アメリカでは合理主義が重視される。利用者が少ない線は土日は休み。確かに、合理的だ。儲からない線は休み。資本主義にもかなっている。でも、その少ない利用者にとっては、とお〜っても不便なの。そこには、すごい不合理が内在している。少数意見の切捨て。多数決による民主主義のようだ。日本共産党が主張する、「少数意見も切り捨てずに重視せよ」という、言葉の意味がよくわかった。
しかし、「ブルーラインを土日も動かそう!!」と署名運動をするエネルギーもない。まーしょうがない。これが、現実だ。
 さて、そのまた1週間後の週末。今日はシカゴ美術館へ行くぞ。今度はトンマなまねはしないぞ。と、意気揚々「メディカル・ディストリク駅」へ向かう。
 当然、電車は走っている。
 シカゴ美術館を堪能した後、別な場所に電車で移動する必要が出た。地図を見る。パープルラインで行くのが一番近い。
駅で、パープルラインの電車を待つ。その駅は、ブラウン、オレンジ、パープルの三つの電車が走っている。ブラウンの電車が来た。パープルラインはまだか。
 次は、オレンジが来た。順番からいって今度は、パープルのはず。しかし、来たのはブラウン。おかしい・・・。バープルが来ない。
 もう、15分以上もずっとベンチに座って待っている。
何か、嫌な予感がする。
丁度その時、後ろの方で「パープルラインがどうしたこうした」と客が駅員とやりあっているのが聞こえた。「パープルライン」という言葉に敏感に反応し、そのやり取りに聞き耳を立てる。私の低レベルのヒアリング能力でもハッキリと聞こえた。
 「パープルラインは、土日は休みです」
 ガビーン。
 このとき、ある映画の一シーンが頭に浮かぶ。
 「男はつらいよ第34作 寅次郎真実一路」のラストシーン。
 寅さんが、駅でずっと電車を待っている。しかし、いつまでたっても電車は来ない。線路は、途中で切れていた。
 廃線となった駅で、いつまでも電車を待ち続ける寅次郎。
またやってしまった。何と間抜けな・・・。
「俺は寅さんだ♪ まるで寅さんだ♪」(大槻ケンヂ「元祖 高木ブー伝説」の節で)
 失敗は成功のもとというじゃないか。七転八起。これ以上、失敗しなければいいじゃないか。自分自身を励ます。そしてすぐに、CTA(シカゴの市電、市バス)のルートマップ(兼時刻表)を入手した。他に土日が休みな路線をチェックするのだ。
 えーと、土日が運休なのは、・・・・「ブルーラインのセルマック行」と「パープルライン」・・・だけ。
「両方とも経験済かよ」。サマ〜ズの三村風に、心の中で突っ込みを入れてみるが、心は余計空しくなるだけであった。
 (2004年6月10日)

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発禁となった幻の名曲
「元祖 高木ブー伝説」
今、旧ドリフターブのメンバーで、一番生き生きしているのは、好きなウクレレで生計を立てている高木ブーである。

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