「アビエイター」 The Aviator
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「アビエイター」の精神病理
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配信予定内容 ・ヒューズはマザコンか? ・コクッピットと胎内回帰 ・ヒューズが、素っ裸で部屋にこもっていた精神医学的理由 ・潔癖症なのに、尿をためておくの汚ないと思わないのか? ・ヒューズが病気から救われる方法はなかったか? ・なぜ、同じ言葉を繰り返してしまうのか? ・衝撃のラストシーンの本当の意味 |
見る前に読む 「アビエイター」の基礎知識第1弾 アビエイターは、ほりえもんだった マーティン・スコセッシは、かなり凄いレベルにまで行っちゃっていますが、 果たしてこの映画について行ける観客というのが、どの程度いるのか、難しい ところです。私も一回見ただけで十分理解できなかったクチですが・・・。 おそらく娯楽映画を期待して見に行く日本人観客の大半は「時間が長いだけ のつまらない映画」という感想を述べるでしょう。 しかし、私の今の感想は、「アビエイター」は傑作であるということです。 いくつかの予備知識がないと、「アビエイター」を楽しむことは、難しいと 思います。 とは言いながら、ディカプリオの迫真の演技を多くの人に楽しんでいただき たいし、できれば日本でヒットしていただきたいと願っていますので、この 『短期連載 見る前に読む 「アビエイター」の基礎知識』を、お届けします。 ここで紹介するのは、映画のストーリーではなく、普通のアメリカ人は当然
知っている程度の「アメリカ人の常識」です。でも日本人は、アメリカ通や映
画通の人でないかぎりは、なかなか知らないと思います。 「アビエイター」を見てビックリするのは、ハワード・ヒューズについて何 の説明もなく、映画が始まることです。ハワード・ヒューズの父親は、18歳の時に死亡。 父親が設立したヒューズ・ツール社(油井掘削機メーカー)と莫大な財産を 相続します。つまり、18歳で億万長者になったのです。その説明なしに、映画は始まります。 若造が金を無駄使いして、飛行機の映画を作っているといころから映画は始 まるわけです。映画製作に乗り出したのが、20歳。信じられない若さです。まさに、時代の寵児です。 わりやすく言えば、ライブドアのほりえもんこと、堀江社長みたいなもの。 30歳にして年商100億円の会社の社長。そしてその資金をもとに、フジテレ ビ買収というメディアの世界(ヒューズは映画)に乗り出していくという。そして、テレビや週刊誌をにぎわしている。 堀江社長とハワード・ヒューズは、似ています。 ただ、ヒューズの方が、もっとスケールが大きいし、もっと若かった。 そして、イケ面でした(笑)。 とりあえず、ハワード・ヒューズは、70-80年前のアメリカの堀江社長のよ うなものだとイメージしておけば、良いのではないでしょうか? えっ、もっとヒューズについての正確な知識が知りたい? では、以下のページ゜をご覧ください。 ハワード・ヒューズの略歴 http://www.geocities.co.jp/Hollywood/5710/h-hughes.html 多分、この程度の略歴は、知っていた方が、映画をわかりやすく見られると 思いますよ。 |
第2弾 強迫性障害の基礎知識 ハーワド・ヒューズが病気でなく、単なる「奇人」である、と誤解する人も
いるでしょう。実際、ハーワド・ヒューズを紹介するいくつかのホームページ
では、「奇行」「奇人」といった表現で紹介してあるものもあります。
今回は、「強迫性障害」がどんな病気なのか。 その症状について、紹介しましょう。 強迫性障害とは、不快な考えが頭に何度も浮かぶため、その不安を振り払お
うと、同じ行動を何度もくり返してしまう病気です。 強迫性障害の症状は、強迫行為と強迫観念です。
強迫行為とは同じことを何度も繰り返す行為のことです。 強迫観念とは、同じ考え、言葉、心象が何度も頭に浮かんできて、振り払お うとしても振り払えない状態です。 ジャック・ニコルソン主演の『恋愛小説家』も、強迫性障害の話です。 主人公ユドールは、ドアの鍵がきちんとかかっている二つの鍵について三回 ずつ、確認しないと気がすまないのです(確認強迫)。 また、部屋の電気も三回点けたり消したりして確認します。 自分のはいていた手袋は、ゴミ箱に捨て、熱湯で手を洗います。 新品の石鹸を開封して使いますが、一回使っただけで、すぐに捨てて、さら に新しい石鹸を開封して使います(不潔恐怖、洗浄強迫)。 こうした行為や考えは、たいへんおかしな行為です。しかし、自分でおかし いとわかっています。でもやめられないのです。 わかっちゃいるけどやめられない♪♪ (植木等) これが強迫性障害の特徴ですが、患者さんにとっては苦痛の原因でもありま す。 何度も確認しないとどうしても気になる。 清潔が気になって、何回か手を洗う。 こうした傾向は、誰にでも、多少はあるばすです。 特に思春期の女の子には、強く現れます。 ですから、もともとは誰にでもある心性なのです。 そうした、心性が極端に強まって、暴走しはじめて病気となります。 自分の理性によるコントロールを失った状態が、強迫性障害なのです。 したがって、病気が悪化すればするほど、コントロールがきかなくなってい くのです。 以上の強迫性障害の症状を念頭において「アビエイター」を見ると、ハワー ド・ユューズの苦悩が手に取るように理解できるはずです。 もし、「恋愛小説家」を見ていない人がいれば、傑作映画なので、レンタル でいいので見てほしいと思います。 「アビエイター」をよりおもしろく見るための予備知識が得られます。 なぜ強迫性障害になるのかという原因。そして、その治療法、対処法につい ては、「アビエイター」公開後に、内容を詳しく見ながら、説明していきます。 ※強迫性障害と強迫神経症 昔は「強迫神経症」と呼ばれていましたが、神経症という病気の概念のあい まいさから、最近の精神科の診断基準では「神経症」という言葉はなくなっ ています。したがって、学問的には現在は「強迫性障害」が正しといえます。 ただ、昔のくせで、我々精神科医も、「強迫神経症」と言う言葉をついつい 使ってしまうことはあります。 |
第3弾 「アビエイター」 知識いろいろさて、ハワトード・ヒューズについての知識もゲットしたし、強迫性障害の 基礎知識も学びました。 短期連載は今回で最後ですが、こまごまとした知識をまとめて紹介しま しょう。 ■ ミスター・メイヤーって誰? 映画の冒頭部分。撮影にたくさんのカメラが必要なので、調達を依頼する ヒューズ。この時、社交場「ココナッツ・グローブ」で、彼が話しかけるのが、 「Mr.メイヤー」です。 あなたは、メイヤー氏をご存知でしょうか? Mayor? ロサンゼルス市長に、カメラの話をするなんておかしいな?
違うって。 ルイス・B・メイヤーでしょ。 メイヤーはヒューズを、ハリウッドの新参者であり、映画のことを何も知ら
ない億万長者の坊ちゃんとしか思っていません。そのため、メイヤーはヒュー
ズをバカにした態度であしらいますが、プライドの高いヒューズはそれがとて
も癪にさわります。 ■ パンナムとTWAの対立 劇中に、TWAとパンナムという二つの航空会社が出てきます。 TWAは、ヒューズが設立した航空会社です。パンナムとTWAは、アメリカの初期の航空会社の大手二社。ユナイテッド・エアが第一位。パンナムは第二位でしたが、パンナムはハワード・ヒ ューズのTWAを買収し第一位の航空会社となります。 日本で言えば、日本航空がJASを取り込んで第一位の座を磐石にしたような もの。 すなわち、パンナムやTWAというのは、アメリカ人なら誰でも知っている 有名な航空会社です。 「2001年宇宙の旅」を思しましょう。宇宙船の機体にはパンナムのマークが書
かれています。つまり、キューブリックの予想では、航空大手のパンナムが、宇宙への定
期便を運行するという予想だったわけです。
つまり、それほど大きな会社だったと言うことですが、パンナムは1991年に倒
産してしまいます。 ■ ケイト・ブランシェットの演技 さて、「アビエイター」を見る準備は万端です。
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まぐまぐ2004年メルマガ大賞新人賞 |