「アビエイター」 The Aviator


予告 「アビエイター」の精神病理
見る前に読む 「アビエイター」の基礎知識
 第1弾 アビエイターは、ほりえもんだった
 第2弾 強迫性障害の基礎知識
 第3弾 「アビエイター」公開直前 知識いろいろ 

「アビエイター」の精神病理


全六回連載(4月4日スタート)

 強迫性障害に苦しむ主人公ヒューズの心理を詳細に解説します。映画を見てスッキリしなかった、ヒューズの心理と行動が手に取るように分ります。
 読み逃すと、損するかも・・・。
 メルマガ読者の方は、お楽しみに。
 読者でない方は、今すぐメルマガ登録を。

aviayor.jpg (9349 bytes)

配信予定内容
・ヒューズはマザコンか?
・コクッピットと胎内回帰
・ヒューズが、素っ裸で部屋にこもっていた精神医学的理由

・潔癖症なのに、尿をためておくの汚ないと思わないのか?
・ヒューズが病気から救われる方法はなかったか?
・なぜ、同じ言葉を繰り返してしまうのか?
・衝撃のラストシーンの本当の意味
 

メルマガ登録
メールアドレス:

※登録は無料です

 

見る前に読む 「アビエイター」の基礎知識

第1弾 アビエイターは、ほりえもんだった

          
 「アビエイター」の2回目を鑑賞しました。 1回目見た時より、はるかにおもしろかったです。 でも正直、難しい映画です。「アビエイター」は「ギャング・オブ・ニュー ヨーク」と良く似ています。表面的には非常にわかりやすい話です。しかし、映画の本当の価値は、当時のアメリカの時代的な背景、社会情勢な どを理解しないと、全く伝わりません。言葉に頼らないで、映像によって大部 分を説明しているので、映画を見慣れていない人には、理解しづらい描写が多 いと思います。

 マーティン・スコセッシは、かなり凄いレベルにまで行っちゃっていますが、 果たしてこの映画について行ける観客というのが、どの程度いるのか、難しい ところです。私も一回見ただけで十分理解できなかったクチですが・・・。 おそらく娯楽映画を期待して見に行く日本人観客の大半は「時間が長いだけ のつまらない映画」という感想を述べるでしょう。

 しかし、私の今の感想は、「アビエイター」は傑作であるということです。  いくつかの予備知識がないと、「アビエイター」を楽しむことは、難しいと 思います。  とは言いながら、ディカプリオの迫真の演技を多くの人に楽しんでいただき たいし、できれば日本でヒットしていただきたいと願っていますので、この 『短期連載 見る前に読む 「アビエイター」の基礎知識』を、お届けします。

 ここで紹介するのは、映画のストーリーではなく、普通のアメリカ人は当然 知っている程度の「アメリカ人の常識」です。でも日本人は、アメリカ通や映 画通の人でないかぎりは、なかなか知らないと思います。  
 第一回は、「ハワード・ヒューズって誰よ?」ということです。  詳しく知っている方は、あまりいないと思います。私自身、昔のハリウッドの映画監督ということは知っていましたが、作品は 一つも見ていませんし、作品名すら映画を見て知ったほどです。また、大西洋の定期旅客便をはじめて飛ばしたのがヒューズだとは知りません でした。

 「アビエイター」を見てビックリするのは、ハワード・ヒューズについて何 の説明もなく、映画が始まることです。ハワード・ヒューズの父親は、18歳の時に死亡。  父親が設立したヒューズ・ツール社(油井掘削機メーカー)と莫大な財産を 相続します。つまり、18歳で億万長者になったのです。その説明なしに、映画は始まります。

 若造が金を無駄使いして、飛行機の映画を作っているといころから映画は始 まるわけです。映画製作に乗り出したのが、20歳。信じられない若さです。まさに、時代の寵児です。

 わりやすく言えば、ライブドアのほりえもんこと、堀江社長みたいなもの。  30歳にして年商100億円の会社の社長。そしてその資金をもとに、フジテレ ビ買収というメディアの世界(ヒューズは映画)に乗り出していくという。そして、テレビや週刊誌をにぎわしている。

 堀江社長とハワード・ヒューズは、似ています。  ただ、ヒューズの方が、もっとスケールが大きいし、もっと若かった。  そして、イケ面でした(笑)。  とりあえず、ハワード・ヒューズは、70-80年前のアメリカの堀江社長のよ うなものだとイメージしておけば、良いのではないでしょうか?    えっ、もっとヒューズについての正確な知識が知りたい?  では、以下のページ゜をご覧ください。

 ハワード・ヒューズの略歴 http://www.geocities.co.jp/Hollywood/5710/h-hughes.html  多分、この程度の略歴は、知っていた方が、映画をわかりやすく見られると 思いますよ。

 

第2弾 強迫性障害の基礎知識

       
 「アビエイター」は、映画監督で飛行家のハーワド・ヒューズの波乱の人生 を描いた作品、ではありません。これを期待して、映画を見る人は多分失望す るでしょう。「アビエイター」は、ヒューズが強迫性障害を発病し、苦悩しな がら、心の病と戦う様子をリアルに描いた作品なのです。  
 その描写、そしてディカプリオの演技も含めて、本当にリアルです。  医学部の学生とか、精神科の研修医に見せるのには、これほど優れた教材は ないでしょう。
 といっても、普通の人は「強迫性障害」とは一体どんな病気なのか、わから ないでしょう。「強迫性障害」に対する予備知識が全くない人が、この映画を 見てどう感じるのか、私には予想できません。

 ハーワド・ヒューズが病気でなく、単なる「奇人」である、と誤解する人も いるでしょう。実際、ハーワド・ヒューズを紹介するいくつかのホームページ では、「奇行」「奇人」といった表現で紹介してあるものもあります。  
 ただ風変わりな行動をとる人ということではなくて、彼は「病者」であり、 その病気の症状に悩んでいた。その気持ちを理解する、という視点で「アビエ イター」を見ないと、「アビエイター」の映画としての本当の素晴らしいさは 見えてこないのではないか、という気がします。

 今回は、「強迫性障害」がどんな病気なのか。  その症状について、紹介しましょう。

 強迫性障害とは、不快な考えが頭に何度も浮かぶため、その不安を振り払お うと、同じ行動を何度もくり返してしまう病気です。
 手を何度も洗わずにはいられないとか、戸締まりを何度も確認しなくては気 がすまない、といった行動が代表的です。
 こうした行動は、誰でもたまには経験する行動ですが、それが限度を超えて、 日常生活に支障をきたす状態が強迫性障害です。

 強迫性障害の症状は、強迫行為と強迫観念です。  強迫行為とは同じことを何度も繰り返す行為のことです。
(1)汚れが気になって、何度も手を洗う(不潔恐怖、洗浄強迫)
(2)戸締りや、忘れ物をしたのではないかと考えて確かめる(確認行為)
(3)ものを順番どおりにきちんと並べないと気がすまない。  などの症状があります。

 強迫観念とは、同じ考え、言葉、心象が何度も頭に浮かんできて、振り払お うとしても振り払えない状態です。

 ジャック・ニコルソン主演の『恋愛小説家』も、強迫性障害の話です。  主人公ユドールは、ドアの鍵がきちんとかかっている二つの鍵について三回 ずつ、確認しないと気がすまないのです(確認強迫)。  また、部屋の電気も三回点けたり消したりして確認します。  自分のはいていた手袋は、ゴミ箱に捨て、熱湯で手を洗います。  新品の石鹸を開封して使いますが、一回使っただけで、すぐに捨てて、さら に新しい石鹸を開封して使います(不潔恐怖、洗浄強迫)。

 こうした行為や考えは、たいへんおかしな行為です。しかし、自分でおかし いとわかっています。でもやめられないのです。

 わかっちゃいるけどやめられない♪♪ (植木等)

 これが強迫性障害の特徴ですが、患者さんにとっては苦痛の原因でもありま す。

 何度も確認しないとどうしても気になる。  清潔が気になって、何回か手を洗う。  こうした傾向は、誰にでも、多少はあるばすです。  特に思春期の女の子には、強く現れます。  ですから、もともとは誰にでもある心性なのです。

 そうした、心性が極端に強まって、暴走しはじめて病気となります。  自分の理性によるコントロールを失った状態が、強迫性障害なのです。  したがって、病気が悪化すればするほど、コントロールがきかなくなってい くのです。

 以上の強迫性障害の症状を念頭において「アビエイター」を見ると、ハワー ド・ユューズの苦悩が手に取るように理解できるはずです。  もし、「恋愛小説家」を見ていない人がいれば、傑作映画なので、レンタル でいいので見てほしいと思います。  「アビエイター」をよりおもしろく見るための予備知識が得られます。

 なぜ強迫性障害になるのかという原因。そして、その治療法、対処法につい ては、「アビエイター」公開後に、内容を詳しく見ながら、説明していきます。

※強迫性障害と強迫神経症  昔は「強迫神経症」と呼ばれていましたが、神経症という病気の概念のあい まいさから、最近の精神科の診断基準では「神経症」という言葉はなくなっ ています。したがって、学問的には現在は「強迫性障害」が正しといえます。  ただ、昔のくせで、我々精神科医も、「強迫神経症」と言う言葉をついつい 使ってしまうことはあります。

 

第3弾   「アビエイター」 知識いろいろ

 さて、ハワトード・ヒューズについての知識もゲットしたし、強迫性障害の 基礎知識も学びました。  短期連載は今回で最後ですが、こまごまとした知識をまとめて紹介しま しょう。

■ ミスター・メイヤーって誰?

 映画の冒頭部分。撮影にたくさんのカメラが必要なので、調達を依頼する ヒューズ。この時、社交場「ココナッツ・グローブ」で、彼が話しかけるのが、 「Mr.メイヤー」です。  あなたは、メイヤー氏をご存知でしょうか?  

 Mayor? ロサンゼルス市長に、カメラの話をするなんておかしいな?  違うって。  ルイス・B・メイヤーでしょ。
 映画を見ながら頭の中で、一人ボケ突っ込みをやってしまいました。
「ルイス・B・メイヤー」といっても、若い人は多分わからないかもしれま せんね。ルイス・B・メイヤーは、MGM映画の創始者です。
 MGM映画というのは、ライオンが吠える、あのトレードマークで有名な映 画会社。MGMとは、メトロ・ゴードウィン・メイヤーの略です。メトロとは、マーカス・ロウのメトロ・ピクチャーズ。  ゴールドウィンとは、サミュエル・ゴールドウィン。メイヤーとは、ルイス・B・メイヤー。  会社を創立した三人の人物にちなんで、MGMというネーミングになってい ます。ルイス・B・メイヤーは、映画界の超大物なのです。  一方、ハワード・ヒューズは、この時21、2歳の若造です。

 メイヤーはヒューズを、ハリウッドの新参者であり、映画のことを何も知ら ない億万長者の坊ちゃんとしか思っていません。そのため、メイヤーはヒュー ズをバカにした態度であしらいますが、プライドの高いヒューズはそれがとて も癪にさわります。  
 ヒューズとメイヤーとの関係は、後半とても重要になってきます。  ここに書いてある程度のことを覚えておくと、二人の微妙な表情や態度の変 化を楽しめます。

■ パンナムとTWAの対立

 劇中に、TWAとパンナムという二つの航空会社が出てきます。  TWAは、ヒューズが設立した航空会社です。パンナムとTWAは、アメリカの初期の航空会社の大手二社。ユナイテッド・エアが第一位。パンナムは第二位でしたが、パンナムはハワード・ヒ ューズのTWAを買収し第一位の航空会社となります。

 日本で言えば、日本航空がJASを取り込んで第一位の座を磐石にしたような もの。  すなわち、パンナムやTWAというのは、アメリカ人なら誰でも知っている 有名な航空会社です。

 「2001年宇宙の旅」を思しましょう。宇宙船の機体にはパンナムのマークが書 かれています。つまり、キューブリックの予想では、航空大手のパンナムが、宇宙への定 期便を運行するという予想だったわけです。  つまり、それほど大きな会社だったと言うことですが、パンナムは1991年に倒 産してしまいます。
    
 パンナムとTWA(トランス・ワールド・エア)は、その名前に戦略が現れてい ます。  つまり、パンナムは、北米と南米を結ぶ路線を強化し拡大(パン・アメリカ ン=汎アメリカ)していきますが、TWAはトランス・ワールドすなわち大西洋を 横断する定期便を始めて就航させ、東西への路線を強化していくのです。そんな、航空路線戦争にヒューズは、巻き込まれていきます。

■ ケイト・ブランシェットの演技  
 キャサリン・ヘップバーン演じるケイト・ブランシェットが、アカデミー助 演女優賞を受賞しました。
 その彼女の演技は、キャサリン・ヘップバーンにそっくりなのです。  なりきってます。

 アカデミー賞は物真似演技にあまいと言われますが、全くその通りで、今年 は「レイ/Ray」のレイ・チャールズの物真似演技のジェイミー・フォックスと、 主要演技部門の半分が物真似だったわけです。  

 しかしながら、キャサリン・ヘップバーンの作品は、かなりの映画ファンで ないと、見たことがないと思います。  アカデミー主演女優賞を四度も受賞している名女優です。  代表作は、「若草物語」(1933)、 「赤ちゃん教育」(1938)、「フィラデル フィア物語」(1940)。  どれか一本でも見ておくと、彼女の演技が何倍も楽しめますよ。  もし見てないと、「随分、仰々しい演技だなあ」と思うかも(笑)。

 さて、「アビエイター」を見る準備は万端です。
 思いっきりお楽しみください。

 

まぐまぐ2004年メルマガ大賞新人賞
メルマガ シカゴ発 映画の精神医学

メールアドレス:

※もちろん無料です