CASSHERN


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 私2004年4月から、アメリカのシカゴに来ている。日本で見た最後の映画がこの「CASSHERN」となった。それも、アメリカへの出発当日。午前中に映画を見て、夕方の飛行機で出発した。それが、「CASSHERN」の公開初日だったので、そうするしかなかった。そうまでして、どうしても見たい映画だったのだが・・・。

 まずは、出来不出来はともかくとして、この映画を6億円で撮ったというのは賞賛に値する。今日、CGを多用した映画はハリウッドでは100億円かけるのが常識となる中、その10分の1以下で撮ったというのは、凄いことだろう。革命といえるかも知れない。
 前半部分は相当に見せる。ロボット軍団が行進する中、ブライとキャシャーンが合間見える前半のクライマックスは、あまりのすばらしさに鳥肌が立つ。

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前半のクライマックス

 前半は非常にテンポよく進む。余計な説明は極力排除して、言葉ではなく映像で説明がなされる。例えばこの世界が一体どういう社会なのか? 町の外観やレトロな機械がたくさん登場する冒頭の数シーンで全て伝わってくる。ストーリーが凄い速さで進んで、その疾走感がたまらない快感である。まるで「マトリックス」(1作目)のように。
 紀里谷監督は、映画のドラマツルギー(作劇技法)というものを、根底から塗り替えてしまうのか? そんな期待すら胸をよぎった。紀里谷監督は、今まで写真やプロモーションフィルムなどを手がけてきたが、長編映画は初めてである。映像のプロではあるが、映画のプロではない。だからこそ、今までのしがらみや、常識にとらわれない自由な映画を作りえたのか・・・と。
 しかし後半になり、その期待は大きく裏切られる。ブライとキャシャーンが、ブライの本拠地で合間見えるシーンである。新造人間ブライが、人間に対する恨みつらみを延々と語りだす。疾走するように流れてきた映画は、この室内のシーン完全に動きを停止する。演劇のように長セリフを延々と喋り続ける。いや、正に演劇だ。突然、テンポが演劇になってしまうのだ。
「人はなぜ戦うのか?」 
 この映画は非常に重要な問題提起をしている。しかし、その答えを言葉で登場人物に語らせたことは、最大の失敗である。映画とは、映像で語ってこそ映画。言いたいことを言葉で表現するのなら、もとから映画など撮る必要もない。
「許すことが大切」
「自分の側から戦うことを止めよう」
 言葉にした瞬間に陳腐になってしまう。
 戦争がよくないことは、映画を見なくたって、誰だって知っている。それを改めて言語化することに何も意味もない。逆に興ざめなのだ。むしろ感情に訴える。映像を通して心に直接訴えかけるのが映画である。そして、答えは観客自身が見つけ、観客自身が言語化しなければ、全く印象に残らない。映像を通して伝えればそのイメージは無限に広がるが、言語化してしまえば、イメージはその言葉の牢獄に閉じ込められてしまう。可能性をこじんまりとしたものに限定するのだ。
 前半部分で、ブライの人間に対する恨み、憎しみ。機械と人間の戦いの無意味さ。必然性のない殺し合い。それらが、全てきちんと描かれている。特に、バラシン(佐田真由美)とサグレー(要潤)の死は非常に感動的であった。特にバラシンは悪役側なのに、「死ぬな」と思わず心の中で叫んでしまった。善悪の普遍性のなさ。殺し合いの不条理。全てが、前半部分で見事に描かれているではないか。それをラストの部分で、なぜ改めて言葉で反芻し、説明する必要があるのか?
 結局、紀里谷監督は映画の素人にすぎなかった。ドラマツルキーの破壊ではなく、ドラマツルギーに無知なだけだった。
 後半、ブライとキャシャーン、キャャーンと東博士のやりとりは、ほとんどいらいない。東博士の新造人間の謎に対する暴露の部分だけあれば十分だ。
 そして最後に、実際の戦争の映像や被害者の子供の映像をインサートするのはどうみてもやりすぎ。そこまで説明しないと、テーマが伝わらないと思ったのだろうか? 観客はそんなにバカではないぞ。あるいは、一見自信家に見える紀里谷監督は、実は相当に臆病で心配性なのだろうか。セリフ(言葉)による説明に加えて、分かりやすい戦争映像を使ってこれでもかと周到すぎるほどテーマを補強しないと、わかってくれないとでも思ったのか・・・。ここまでしつこくやられてしまうと、大人の見る物ではなくなってしまう。小学生くらいの子供たちには、分かりやすくて良い映画なのかもしれないが・・・。しかし、この映画の映像に対するこだわりは、小学生に向けたものではないはずだ。もう少し映画を勉強して出直して欲しいと思う。多分、才能と可能性はあるだろうから。
 後半を編集して30分ほどカットすれば、日本映画の傑作になりえたかもしれない。そういえば、編集も紀里谷監督だ。撮影もそうだが、一人で何役もやるのはいかがなものか。自分で撮ったものに、バッサリ挟みを入れることは困難である。
 大変残念な作品だ。 
(2004年6月8日)
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シカゴ発 映画の精神医学
アメリカ、シカゴ在住の精神科医が、最新ハリウッド映画を精神医学、心理学的に徹底解読。心の癒しに役立つ知識と情報を提供ています。
 人種、民族、宗教などアメリカ文化を様々な角度から考察。
 2004年まぐまぐメルマガ大賞、新人賞、総合3位受賞。
(マガジンID:0000136378)

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