激辛カレー批評
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カレー考察
なぜ、これらの店は閉店したのか?
 ー閉店から学ぶ繁盛店の条件ー
 札幌のカレー店。最近では月に3軒くらいのペースで、新しい店がオープンしている。その一方で、閉店に追い込まれるカレー店もある。特に2001年の大きな出来事として、「ザイオン・ロックス」の閉店は非常に残念であった。閉店に追い込まれた店、「ザイオン・ロックス」、「ラトナプーラ」「ジャンタルマンタル」。少し古いが、「銀の塔」というのもあった。実は、この四軒には非常に重要な共通点がある。
 それは、辛さに関してセパレートタイプを採用していたことである。セパレートタイプとは、卓上にチリペッパーやレッドペッパーなどが置いてあって、自分で辛さを調整するやり方である。札幌でセパレートタイプを初めて導入したのは、「アジャンタ」であり「アジャンタ」の店長さんがインタビューで、「セパレートタイプ」という言葉を使っていたので、その言葉を引用させていただいた。
 セパレートタイプと対極をなすのが、注文時に自分の好きな辛さを指定できるオーダーメイドタイプ(樺沢命名)である。オーダーメイドタイプの元祖は、「スリランカ狂我国」だろう。昔から数段階の辛さ指定というのは、どこにでもあった。「タージ・マハール」でも「Hot」「Very Hot」などの数段階の辛さ設定があったが、「スリランカ狂我国」は1番から100番まで自由に辛さを設定できるという、凄いシステムを考案した。「マジック・スパイス」の9段階という細かな辛さ設定も、当然「スリランカ狂我国」の影響であろう。
 「ザイオン・ロックス」、「ラトナプーラ」、「ジャンタルマンタル」、「銀の塔」、これらの店は、いずれもセパレートタイプを採用していた。セパレートタイプとは、卓上にのせられた1種類の辛味スパイスを自分の好みの分だけ入れる。自分の舌に合わせて自由自在に調整できるので、非常に便利な方式に思える。しかし、実際は違う。1種類の辛味スパイスを加えるだけなので、辛さが単調になって、結果としてチリペッパーをたくさん入れたとしても、つまらない辛さにしかならない。

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ザイオン・ロックス

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ラトナプーラ

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ジャンタルマンタル

 札幌の人気カレー店を見た場合、ほとんどがオーダーメイドタイプである。第一回投票の札幌のカレーベストテンで10位に入る店でセパレートタイプを採用しているのは、わずかに「アジャンタ」一軒である。
 これらのオーダーメイドタイプの店は、単に辛いというだけでなく、「こくのある辛さ」「深みのある辛さ」「くせになる辛さ」「うまみと調和した辛さ」を体現している。「スリランカ狂我国」「マジック・スパイス」「エス」「天竺」「ピカンティ」「voyage」いずれもスープのおいしさに加えて、「飽きのこない複雑な辛さ」を味わうことができる。この辛さは、真似の出来ないプロの辛さと言い換えてもよい。私も自分でカレーを作るが、どんなに工夫しても「スリランカ狂我国」「マジック・スパイス」の辛さは出せない。
 一方、チリペッパーを入れるだけの辛さであれば、自分の家でもできるわけで、そんなカレーを食べるのなら、わざわざカレー屋に行く必要がない。
 「セパレートタイプ」をとるということは、辛さへの追求を放棄したということを意味する。「アジャンタ」の場合は、スープのうまさだけを追求しており、実際辛くしない方がおいしいので、それは「うちのカレーは、まず旨さを味わえ」という、スープの旨さに対する自信の現れとも考えられる。逆に言えば、「セパレートタイプ」にするということは、そのまま食べて十分おいしいということが、一つの成立条件と言える。
 「ジャンタルマンタル」はレッドカレー、グリーンカレーなどのタイカレーを扱っていた。これらのカレーはある程度辛くないとおいしくない。辛さの調整こそが味の生き死にを決める重要なファクターであるにもかかわらず、セパレートタイプで自分で辛さを調整せよとは、「調理」という行為を放棄しているように思える。

 「ザイオン・ロックス」は、開店当初から注目していた店であった。その理由は、基本となるスープがおいしいからである。しかし、スープはおいしいのだが、スパイスの使い方が上品で、パンチに欠ける。自己主張の弱さが最大の欠点だった。したがって、セパレートタイプではなく、オーダーメイドタイプにして、もっと個性的な辛さを上乗せできれば、かなりの人気店に成れた可能性があった。
 昔、ベッシーホールの隣に、「銀の塔」というおいしいスープカレーの店があった。憶えている人は少ないだろうが、大通近辺にはカレー店が少なく、結構重宝していた。しかし、ここもつぶれた。スープがおいしいだけでは、カレー店は生き残るのは難しいということを「銀の塔」は証明している。
 カレーの二大要素は、「うまさ」と「辛さ」である。「うまさ」だけで勝負するというのは、非常に不利である。セパレートタイプにするということは、この「うまさ」だけで勝負するという行為に他ならない。札幌のカレー屋でセパレートタイプで成功している店といえば、「アジャンタ」と「マッサーラ」くらいではないだろうか。この二店に関しては、セパレートタイプでなければいけない必然性がある。その他にも、セパレートタイプを採用している店はいくつもあるが、私はそれらの店はもっと工夫しないと(うまさをアップするか、複雑な辛さを追加するか)、「ザイオン・ロックス」と同じ運命をたどるのではないかと予想している。
 また、これら閉店組にはもう一つ共通点がある。それは、強烈な個性の欠除である。繁盛しているカレー屋に、共通して言えることは、他のカレー屋では食べられない自分だけのカレーを出していることである。
 コンセプトとして、十人中一人が100点をつければ、残りの9人が0点でも良い。初めて来た客の十人に一人が、リピーターとなり常連客となってくれれば、それで万々歳のはずだ。そうしたコンセプトを明らかに貫いているのが「スリランカ狂我国」である。
 しかし、普通はそうもいかない。来店客の全員に80点をつけてもらおうというコンセプトでカレーを出している店が多い。しかし、80点のカレーは、値段が安いか、家の近くににあるか、そのどちらかでない限り二度とは訪れない。80点のカレーを食べるために、往復30分以上車に乗ってやってくる人は、まずいないだろう。結局、万人に80点のカレーを出すというコンセプトでは、カレー屋はやっていけないのである。
 「ザイオン・ロックス」、「ラトナプーラ」、「ジャンタル・マンタル」、「銀の塔」。いずれも、スパイス使いに大胆さがない。あまり味に個性を出しすぎては、それを嫌うお客さんもいるのではないかと、心配しているかのような、弱々しいスパイス使い。別に、嫌われてもいいじゃないの。それが良いといってくれるお客さんが、10人に一人でもいれば十分だ。
 現在、札幌のカレー屋で閉店の予備軍は10軒はある。もっと怖れず、もっと大胆に自分の店だけのカレーを提供して欲しい。十人中一人しか100点をつけないようなカレーを是非作って欲しい。それと、セパレートタイプを採用している店は、それが自分の店のカレーにとってベストの方法なのかを再考して欲しい。 
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