[映画の精神医学]


 Xメン オフィシャル・ページ(日本語)
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 予想外の映画。予想外に特撮がしょぼい映画、というわけではないが、全く予想もしなかった人種的テーマが「Xメン」には含まれていた。単なる娯楽映画を期待して「Xメン」を見に行くが、娯楽映画としての期待は大きく裏切られる。『マトリックス』をしのぐという宣伝文句は大嘘である。しかし、予想外の収穫、すなわち意外なところでユダヤ映画に出会えたということである。

 冒頭、「1944年、ポーランド」この字幕で場面がどこかがすぐに分かった人は、歴史に詳しい。ポーランドとは言っても、当時はドイツ領になっているわけだが、アウシュビッツ収容所などのユダヤ人強制収容所の多くは、今のポーランドにあった。したがって、「1944年、ポーランド」は、ユダヤ人収容所を連想する。案の定、そうであった。人々が胸につれる黄色いダビテの星。縦縞の収容所の服が、ここが間違いなくユダヤ人収容所であることを説明している。
 さこで、ドイツ兵に連行され、母親と少年は離れ離れになる。少年は、何とかしようとあがく。そして、ミュータントとしての力が発動する。母親との間をしきっていた、分厚い鉄の柵がグニャリと曲がるのだった。
 この少年は将来のマグニートである。マグニートの腕に刺青された、数字(収容所に収容されたユダヤ人は全て識別のために数字を刺青された)が、それを物語る。一瞬しかうつらないし、セリフらよってその辺の事情が全く説明されない。しかし、映像で事実関係を説明していくのが映画である。マグニートスは、ユダヤ人だったのだ。

 でも、日本人の観客は、このセリフのない描写から、どこまでの事実関係を理解できるのか、非常に疑問である。
 そしてユダヤ描写は、これだけに留まらない。
 次のシーンは、近未来の現在。公聴会のシーンで、ミュータントは無害であり人間の敵ではないと説く、ドクター・グレイに対して、一人の上院議員が舌鋒鋭く攻撃を始める。ミュータントの危険性を訴えるケリー上院議員である。ケリー上院議員は、手元にあった書類を手にとって言う。「ここに、ミュータントのリストがある。」そして、リスにあげられたミュータントの特徴を読み上げていく。
 このシーンを見てドキリとする。これは実際にアメリカで起きたおる事件の完全な焼き直しである。

 1950年2月、テレビ・カメラを前にして、ジョセフ・R・マッカーシー上院議員は、「ここに」アメリカの国務省にいるアカどもの50人のリストがある」と、アカ(共産主義者)への攻撃を開始した。ハリウッドの悪名高き、赤狩りである。
 ハリウッドを対象とした赤狩では、ハリウッドにユダヤ人が多かったこととも関係して、多くのユダヤ人が犠牲になった。中には、映画業界から追い出されただけでなく、自殺に追い込まれる者まで出た。それが、ハリウッドの赤狩りである。このケリー議員のセリフといい、動作といい、マッカーシー議員のそれと寸分たがわない。このシーンが、「赤狩り」を意識して作られていることは、明白である。
 つまり、冒頭のポーランドでのユダヤ人収容所のシーンといい、この「赤狩り」のシーンといい、ユダヤ人を強く意識している。すなわち、非常に優れた特殊能力を持ったミュータント。特殊能力を持っているが故に、人間から警戒され怖れられ、差別されてきたミュータントに、ユダヤ人という民族をオーバーラップさせている。
ユダヤ人が頭がよく優秀であることは、広く知られている。例えば、ノーベル賞の受賞者の約三割はユダヤ人である。アメリカでは、医者や弁護士に占めるユダヤ人の割合は、5割近くといわれる。ミュータントとの特殊性、とユダヤ人の特殊性が、見事にオーバーラップしている。



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この人たちジミです

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 マッンカーシ上院議員そっくりの、ケリー議員

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ユダヤ人役のマグニート(右)

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トード役のレイ・パーク
ダース・モールがカエルの役とは、落ちぶれたものだ

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エリス島
アメリカの移民の象徴

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戦闘シーンはかなりじみ
昼間の屋外の戦闘シーンがほとんどない

 世界二百カ国の代表が集まるサミットの会場が、エリス島という設定も絶妙である。エリス島は、アメリカ移民局があった場所である。ヨーロッパからアメリカへ渡ってきた移民たちは、まずこのエリス島に上陸して、移民の手続きをとったのである。ニューヨークといえば多くの人が自由の女神をイメージするが、フランスから贈呈されただけの自由の女神よりも、実際に移民業務を行っていたエリス島の方が、はるかにアメリカらしいといえる。
 言い換えると、外国人がアメリカ人の仲間入りを果たす場所、その象徴がエリス島なのである。それをミュータントに置き換えると興味深い。すなわち、ミュータント登録法案はこのエリス島でのサミットの重要な議題の一つであった。かなわち、ミュータントを人類の仲間とするのか、敵とするのかを決める場所が、エリス島なのである。
 つまり『Xメン』における差別問題に、ユダヤ人を重ねあわせると、ユダヤ人はアメリカ人の一員であり、仲間となりえたのか。あるいは、ユダヤ人はユダヤ人であり、やはりアメリカ人としてなじんでいないし、未だに差別の対象になっているのか。そんな、問題が提起されているように思える。
 唯一はっきりのとしないのは、プロフェッサーXではなく、敵のボスであるマグニートがユダヤ人であるという点である。つまり、悪役としてユダヤ人が登場している。『Xメン』が親ユダヤ映画か、反ユダヤ映画か、どっちかはっきりとしない。しかし最後に、改心とはいかないまでも、変身能力を有するミスティークが、ケリー議員になりすまし、ミュータントの登録法案を却下させたことから、マグニートが人間との融和の方向に歩みだした可能性が示唆される。アメリカ社会にあけるユダヤ人の協調というかたちで、映画は幕を閉じて、『Xメン』が親ユダヤ映画であることがはっきりとする。

 

シカゴ発 映画の精神医学
アメリカ、シカゴ在住の精神科医が、最新ハリウッド映画を精神医学、心理学的に徹底解読。心の癒しに役立つ知識と情報を提供ています。
 人種、民族、宗教などアメリカ文化を様々な角度から考察。
 2004年まぐまぐメルマガ大賞、新人賞、総合3位受賞。
(マガジンID:0000136378)

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