[映画の精神医学]


バトル・ロワイヤル

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 単純に「おもしろい」、そう言っては不謹慎であろうか。実際におもしろいのだからしょうがないだろう。これほど時間を短く感じる映画は少ない。まして、日本映画では滅多にない。時間を短く感じるということは、それだけ映画にドップリとつかっている、映画に引き込まれたということである。

 42人の中学生が、最後の一人になるまで殺しあう。実際、中学生が鎌や機関銃で殺しあうというシーンが描かれる。残酷である。そして不道徳と言われてもしょうがない。しかし、『バトルロワイヤル』(以下『BR』)には、人間のドラマがある。中学生たちが殺しあう前に、そのそれぞれの人間性と個性が描き出される。そして、その描写は42人の生徒のほとんどにおよぶ。これだけたくさんの人物を見事に描写した映画というものが、映画史上あっただろうか。死んでいく子供たちはみな、それぞれの個性をもち、それぞれの人生を歩んでいた。イジメられていた子もいれば、イジメていた子もいる。不良もいれば優等生もいる。この重厚な人間描写を見れば、『BR』のテーマというものは、誰にでもわかると思うのだが、実際はそうでないようだ。
 BR法という法律の唐突さ。バトルロワイヤルのルールについて説明する空々しいビデオ。『BR』において、その死闘と人間ドラマは極めてリアルだが、その設定に現実味がない。すなわち現実ではない架空の話として、映画として(原作では小説として)、「殺さなければ殺される」という事態が設定されるのである。
 『BR』の上映反対派からは、「子供たちが映画を見てそれを真似ると困る」という意見が出た。子供たちを恐れる大人。まさに、『BR』において、BR法を制定した大人たちそのものであり、こっけいですらある。仮に『BR』を見て、それを真似して、殺人を犯してしまった中学生の少年がいたとする。だとすると、それは映画に責任があるのか? もし、映画に責任があるとすれば、その少年はその暴力的映画を見さえしなければ、まっとうに生きていけるのか。


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42人の個性
壮絶なのは暴力描写ではなく、人物描写だ。

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教師キタノの狂気
 しかし、彼は最後に典子が
生き残っているのを知っていたにもかかわらず、それを見逃す。

あるいは、映画を見る前は全くおとなしく普通の少年であったのが、映画を見ただけで凶暴化して、分別がつかなくなり殺人を犯したということなのか。そうではないはずである。もし、『BR』を見て殺人を犯す少年がいたとしたら、その少年は『BR』を見る以前から、心に何らかの問題を抱えていると言えるのではないだろうか。それを早く発見し、何とか対応するのが大人の役割ではないのか。どうすれば、早く発見できるのか。『BR』を親子でそろって見ればよい。そして、その映画について語ってみてはどうか。
 「一番好きなシーンはどこだった?」と聞いて、「鎌で喉を切って、血しぶきが吹き上がるシーン」と答えるようなら、かなり注意が必要かもしれない。しかし、実際はそうでない子供たちの方が圧倒的に多いはずだ。登場人物に共感して涙をこぼす子供であれば、人を刺す心配などないだろう(ちなみに、私は三回泣いた)。
 『BR』は子供たちの攻撃性を知るためのリトマス試験紙になる可能性がある。それを、子供たちに見せないということは、結局問題を先送りにすることに他ならない。国会議員の得意技である。攻撃性を持った子供たちがいる。それは刺激しないように、そっとしておく。そして、放置しておくしかいない。それが、『BR』の上映に反対した国会議員たちの腹づもりである。本人たちは意識してそう思っていなくとも、結果としてそうなるのである。
 「生きる」とか「死ぬ」とか「友情」とか、そういう話題を親子や友人の間で真剣に語るという機会など、日常生活においてはほとんどないだろう。しかし、『BR』を見た後でならば「生きるって大変なことだね」と、素直な気持ちで言えると思う。
 攻撃性を押し込めて、表面的に犯罪が減り、社会から見えなくなればそれでよいのだろうか。あるいは、普段から攻撃性を押し込めながら生活しているから、時に「キレル」のではないのか。もっと人間のマイナスの部分、ネガティブな感情について語る場があっても良いように思える。
 私は、提言する。『BR』を全国の中学生に見せよう。そして、『BR』についての論争バトルロワイヤルを各学級で開くべきだ。

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首輪
はずそうとすると爆発する首輪
このアイデアは、『ウェドロック』からの引用であろうか?

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『ウェドロック』
囚人につけられた首輪
脱獄すると爆発する。

 

 

シカゴ発 映画の精神医学
アメリカ、シカゴ在住の精神科医が、最新ハリウッド映画を精神医学、心理学的に徹底解読。心の癒しに役立つ知識と情報を提供ています。
 人種、民族、宗教などアメリカ文化を様々な角度から考察。
 2004年まぐまぐメルマガ大賞、新人賞、総合3位受賞。
(マガジンID:0000136378)

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