[映画の精神医学]


グリーン・マイル


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オフィシャル・ページ(日本語)
 

 

 『タイタニック』はもう見たくはない
 当ページで何度も述べているように、近年の映画は『タイタニック』型と、『マトリックス』型の二つのタイプに大別できる。『グリーン・マイル』もひの類型に見事に合致する。もちろん、『グリーン・マイル』は全てを順序だてて徹底的説明していく『タイタニック』型である。
 『グリーン・マイル』はかなり良い映画でであるのだが、説明することによって全てを台無しにしてしまっている。
 特にひどいのは、最後の現実の世界に戻ってからの話である。なぜあそこまでセリフで説明しなくてはいけないのか。トム・ハンクスやマイケル・クラーク・ダンカン(コーフィー)の迫真の演技。その迫真の演技によって、全てが説明されていた。映像と演技、役者の表情によって、全ての心の内面が説明されていた。そして、その心の動きが観客にも伝わったからこそ、それまでのシーンで感動していたはずだ。
 それが、なぜラスト・シーンで、改めて全てをセリフで説明しなくてはいけないのか。映像や演技で全てを伝える。それこそが映画の醍醐味である。その醍醐味を存分に味あわせておきながら、最後に不必要な説明することは、観客に伝えてきたイメージを全て小さな箱に押しこめてしまうような行為である。全く惜しいというか、残念というか。
 ここまで、冗長に説明されてしまうと、観客としてバカにされているのではないかという気すらする。
 スティーブン・キングの原作が全六巻であるから、三時間にも及ぶのもわからないではないが、タイタニック同様に二時間程度にまとめてくれた、少なくとも私にとっては本当に最高の映画になったと思う。

 死と生
 『グリーン・マイル』のテーマ、それは「死」であるが、正確に言うと「死と生」といった方が良いかもしれない。
 死刑囚と脳腫瘍をわずらった所長の妻を通して、人間にとっての死が描き出されていく。
 ラスト・シーンで、ポールとジングルズは死ぬことを許されないことが明らかにる。これは、「不死」という究極的な「生」を提示することで、「死」のテーマを強調しようとしたものであろう。
 『グリーン・マイル』を見ると、ただ生きているというただそれだけのが、ひどく幸せに思える。人間は常に生きているので、「生」を実感する瞬間は滅多にない。我々は『グリーン・マイル』のあと数日しか生きることの出来ない死刑囚たちの生き様、そして死に様を見ることで、自分は今生きているし、自分で自由に使える時間をふんだんに持ち合わせることの幸せを感じるのだ。

 コーフィーは神か
 コーフィーの持つ不思議な力。生命の力を与え、病気を治療する。 その力を「イエスの奇蹟」すなわち、神の力にオーバーラップしていく。そして、結局無罪であったコーフィーの死は、無実のまま十字架にかけられたイエスにそのまま重なる。
 ジョン・コフィー(John Coffey)のイニシアルは、J・C。イエス・キリスト(Jesus Christ)のイニシアルと同じである。
 どうしても、神を引き合いに出してしまうのが、アメリカ的だなあという感じがする。個人的には、単なる「不思議な力」で十分だと思うのだが。 

 結構厳しく書かせてもらったが、そんなに悪い作品ではないと思う。「絶対感動させます」的なテレビ・スポットが、多くの観客を動員しているが、逆に感動できなかったという反感を呼んでいるようにも思える。泣くとかなかないとか、そんな表面的な問題ではなく、生きることとは何か、死ぬこととは何かという人間にとって非常に重要な問題を扱っている『グリーン・マイル』は、感動というよりも深い感銘を与える作品である。



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鬼気迫るトム・ハンクスの演技


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 ジョン・コフィー
イエス・キリストと同じイニシアルを持つ男
 

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『ファントム・メナス』の撮影を務めたデビッド・タッソールの重厚な映像


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不老不死を獲得したネズミ ジングルス

 

 

シカゴ発 映画の精神医学
アメリカ、シカゴ在住の精神科医が、最新ハリウッド映画を精神医学、心理学的に徹底解読。心の癒しに役立つ知識と情報を提供ています。
 人種、民族、宗教などアメリカ文化を様々な角度から考察。
 2004年まぐまぐメルマガ大賞、新人賞、総合3位受賞。
(マガジンID:0000136378)

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