[映画の精神医学]


ミュージック・オブ・ハート オフィシャル・ホームページ(日本語)
 ロベルタ・ガスパーリの実話。映画の裏話等内容豊富。一見の価値あり。

オフィシャル・ページ(英語)


観客に勇気を与える映画
 
 素人の子供たちが、カーネギー・ホールでヴァイオリンを演奏する。そんな、ことが本当に可能なのか。 なにかうさんくささを感じながら、映画を見始める。しかし、映画は十分な説得力を持って展開していく。そして、不覚にも四回も涙を流した。
 一生懸命頑張れば、多くの人が協力してくれる。人々は最初は、彼女の頑張りに、半信半疑である。ジャネット校長も、恋人も子供たちもそうである。しかし、彼女の熱心な努力によって、周囲の人々が変化していく。最後には、彼女のヴァイオリン・クラスを維持するために、多くの人が自発的に動き出す。「努力は報われる」すごく当たり前のことだが、現代社会を見れば「出る杭は打たれる」ことが多く、途中で挫折してしまうかもしれない。実際、ロベルタも途中で挫折しそうになる。それでも頑張るというのは、結構大変なことだと思う。
 また、彼女の頑張りを通して、周囲の人間が変化し、成長していったようにも見える。例えば、「ヴァイオリンは白人の音楽」と言って、子供を授業に通わせるのを拒絶した母親。彼女はロベルタの情熱に動かされ、明らかに変化している。小学校のジャネット校長も、最初は彼女のヴァイオリン教師への採用にすら反対していたが、ロベルタの解雇が役所から通告されたときは3日間声がかれるまで抗議し続けた。そして、チャリティー・コンサートの開催もジャネット校長が先頭をきってリーダー・シップをとるのである。ロベルタの一生懸命な姿に動かされ校長は明らかに変化している。無理にヴァイオリンを教える母親に反抗する二人の息子。はしかし、彼らも母親の良き協力者へと成長していく。嫌味な音楽教師デニスですら、少しはましな男に変化しているようである。
 一生懸命頑張れば、多くの人が協力してくれる。そして、周りの人の見方や考え方にまで影響を及ぼしてしまうのである。そういう意味で、『ミュージック・オブ・ハート』は我々に勇気を与えてくれる。

 カーネギー・ホールでのコンサートの朝。出迎えに来たリムジンの中で、ロベルタは母に言う「チャールズに感謝しましょう」と。チャールズとは彼女の前夫。彼女を捨てて、別な女のもとに走った男である。チャールズと離婚したおかげで、小学校でヴァイオリンを教えることになるのである。チャールズと離婚していなければ、カーネギー・ホールでの演奏はなかった。そういう皮肉の意味をこめて、「チャールズに感謝しましょう」と、ロベルタは言ったのだ。
 言い換えれば、「失敗は成功の元」「人間万事、塞翁が馬」。悪いことの次には、良いことがある。これも、我々に非常に勇気を与える教訓である。失敗して意気消沈すること。挫折しそうになること。そんなとき、この映画は我々に希望を与える。


 それにしても、この感動大作を監督したのが、『スクリーム』『エルム街の悪夢』のウェス・クレイブンなのだから、驚かされる。オープニングのクレジットに、監督としてウェス・クレイブンの名前が出るが、同姓同名の別なウェス・クレイブンが存在するのかと思ってしまったほどだ。ただし、『スクリーム』や『エルム街の悪夢』は、いずれも映画的には丁寧な手抜きのない緻密な作りの作品である。丁寧な演出という彼の作風は、『ミュージック・オブ・ハート』に受け継がれている。ウェス・クレイブンは、『ミュージック・オブ・ハート』で初めてホラー映画以外の作品に挑戦したが、今後の彼の監督作も要チェックであろう。

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主人公ロベルトを演じるメリル・ストリープ。かなり太めであるが、これも役作りか?

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本物のカーネギー・ホールでのロケは迫力がある

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アイザック・スターンやイッハーク・パールマンら超一流音楽家の生出演、生演奏は圧巻

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監督のウェス・クレイブン
『スクリーム』『エルム街の悪夢』などのホラー映画で有名であったが・・・。

 

人種問題についての若干の考察
 『ミュージック・オブ・ハート』は、ニューヨークを舞台としたものがたりである。小学校のある場所は、イースト・ハーレムで住所まで登場している。ニューヨークを舞台にした映画には、必ずユダヤ人が登場している(ニューヨークの人口の約三分の一は黒人、そして同じく約三分の一はユダヤ人である)。
 ユダヤ系とオランダ系の血を引くメリル・ストリープは、残念ながらこの映画ではユダヤ人として登場していない。『ミュージック・オブ・ハート』は、実在の女性ヴァイオリン教師ロベルタ・ガスパーリの現実の物語をもとにしており、実際のロベルタ同様イタリア系として登場しているようである。では、ユダヤ人は誰か。小学校にいたもう一人の音楽教師、背の小さな男デニスである。
 デニスは、悪役として登場している。まず、ロベルタの採用に、校長に異議を唱える。彼は縦笛の授業を担当するが、彼の授業は全く無気力そのものである。そして、予算の削減にともない、ロベルタの解雇が決まった時は、口では同情の言葉を述べながらも、顔は邪魔者がいなくなったとばかりほくそえんである。一方で、新聞の取材には、自分と校長が率先してロベルタを雇ったと嘘をつく。せせこましい、本当に嫌な男として彼は登場しているが、デニスはユダヤ人の役である。

 デニスを演じるジョシュ・ペイスは、『スクーリーム』で事件の調査に当たるウォーレス刑事を演じていた。ウェス・クレイブンつながりで、今回の『ミュージック・オブ・ハート』の出演に至ったようである。

 『ミュージック・オブ・ハート』で、人種問題はどう描かれているのか。ロベルタが教える子供たちは、黒人、ヒスパニック系、インド系、アジア系と様々である。こうしたカラード(有色人種)の子供たちが、白人教師の指導のもと、大きく成長していくという物語は、人種の枠を超えた交流をテーマにしているように思える。そして、カーネギー・ホールでの一流音楽家たちとの演奏シーン。アイザック・スターンやイッハーク・パールマンはいずれもユダヤ人である。ロベルタや有色人種の子供たちとユダヤ人一流演奏家と一緒に演奏するのである。やはり、音楽を通しての人種の枠を超えた心の交流が、『ミュージック・オブ・ハート』のテーマの一つと考えられる。

 そう考えると、嫌味なユダヤ人教師の存在は余計違和感を憶える。ある種のコメディー・ロールという意味から、やむを得ないキャラキクターなのか。

 

シカゴ発 映画の精神医学
アメリカ、シカゴ在住の精神科医が、最新ハリウッド映画を精神医学、心理学的に徹底解読。心の癒しに役立つ知識と情報を提供ています。
 人種、民族、宗教などアメリカ文化を様々な角度から考察。
 2004年まぐまぐメルマガ大賞、新人賞、総合3位受賞。
(マガジンID:0000136378)

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