[映画の精神医学]


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 アニメーションはここまで進化したか。滝の水、森の葉、樹木の苔、これらの質感はどうやって出したのか。そして、躍動的なカメラ・ワーク。アニメーションで、カメラワークやカメラアングルが、これほど重要だったのかと気づかされる。視覚体験という意味で、ターザンは、斬新である。また、この躍動感は映画感ならではの、迫力である。『ターザン』の映像的な素晴らしさは、見れば誰にでもわかるだろうからこれ以上言及するまでもない。
 フィル・コリンズの音楽は、感動的であり、ストーリーとあいまって感動的な作品に仕上がっている。
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  しかしながら、この家族向け、あるいはカップル向けの感動映画を、樺沢的に分析すると、全く別な映画に変貌する。一般的な批評では、『ターザン』は他のディズニー映画同様に、心温まる感動的な映画ということになるだろう。しかし、樺沢的な味方では『ターザン』は他のディズニー映画同様にうさんくさい、ということになる。この愛をテーマにした作品のどこに、うさんくささがあるのか多くの人は疑問に思うかもしれない。しかし、それはあまりにも脳天気すぎる。
 私は、かねてからディズニー映画(1984年以降)の特徴を、インターマリッジ(人種間恋愛)による反白人映画として、総括してきた。その特徴は、『ターザン』においても、完全に満たされている。
 ディズニーの創設者であるウォルト・ディズニー時代のアニメは、『白雪姫』、『シンデレラ』、『眠れる森の美女』など白人男性と白人女性の恋愛だけが扱われきた。そして、ウォルト・ディズニー(アイルランド系であるがプロテスタント)自身が、反ユダヤ的な白人として知られていた。しかし、ウォルト・ディズニーの死後、経営上の理由で、1984年からマイケル・アイスナー(ユダヤ人)が、デイズニーの会長兼CEO(最高経営責任者)に就任する。それ以降、ディズニー映画は変貌する。白人女性と白人男性との恋物語という黄金パターンが、全くといっていいほど作られなくなってしまう。そして、なぜか
白人とインディアン(『ポカホンタス』)、白人と異形のもの(野獣『美女と野獣』、人魚『リトル・マーメイド』)、ジプシーとせむし男(『ノートルダムの鐘』)、白人とインド人(『ジャングル・ブック』)との恋愛物語を作り始めたのである。白人同士の恋愛映画は、何本作られただろう。
 異人種間の結婚、日本語でいうところの国際結婚をインター・マリッジという。上述の様に、アイスナーのCEO就任以降、なぜかディズニーはほとんどの作品でインター・マリッジが扱われている。そのカップルの一方は、ほとんどの場合白人、それもアングロサクソン系プロテスタント(WASP)である。今でも、アメリカには保守的なWASPがいて、彼らはインター・マリッジを嫌悪する。純粋なホワイトの血に、異民族の血が混じることを嫌悪するのだ。しかし、アイスナーのディズニー映画はWASPが嫌がるような映画ばかりを意図して作った。

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猿人(ドイツ系)とアングロサクソン系白人との恋愛

 『ポカホンタス』、『ジャングル・ブック』(94年)そしてこの『ターザン』における悪役は、白人であり帝国主義をふりまわすイギリスである。『ターザン』において、キャンプでユニオンジャックが高らかにたなびいて、侵略者としての大英帝国が強調されていた。そして、イギリス人は侵略者として極端に野蛮で残虐な人間として描かれている。これらの三作品は、反英、反白人映画である。

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野蛮で残虐な白人の代表
クレイトン

 『ターザン』における人種問題は、どうなっているか。主人公ターザンの両親はグレイストーク夫妻である。本編には直接名前が出てこないが、予告編ではグレイストーク夫妻という名前が出てきた。歴代のターザン俳優たちがドイツ系俳優によって演じられ、ドイツ系プロデューサーとドイツ系監督によって製作されてきたように、ターザン映画はドイツ人の誇りでもあった。その辺を詳しく知りたい人は、German-Hollywood Connection
http://www.german-way.com/cinema/ghintro.htmlを参考にするとよい。
 ドイツ系も白人である。しかし、イギリス人クレイトンはターザンを猿人(エイプマン)と呼び、彼を人間以下として扱う。そして、日に焼けたターザンの肌はもはや白人とは良い難い。ターザンとジェーンの恋は、白人同士の恋物語ではなく、他のディズニー映画同様インター・マリッジの一環として描かれているのだろう。
 ターザンとジェーンが、手のひらと手のひらを合わせる。その瞬間、人間は人間同士、人種や出身、どこでそだったかなどの差なく、気持ちが通じ合えることが描かれる。
純粋な人間の愛、あるいは人類は平等であるであるという素晴らしいテーマを題材にしていながら、どうもうさんくささを感じずにいられない。 

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手と手を合わせる
それはあらゆる障壁を越えて人間は理解し会えるという表現のはずだが・・・

 

 

シカゴ発 映画の精神医学
アメリカ、シカゴ在住の精神科医が、最新ハリウッド映画を精神医学、心理学的に徹底解読。心の癒しに役立つ知識と情報を提供ています。
 人種、民族、宗教などアメリカ文化を様々な角度から考察。
 2004年まぐまぐメルマガ大賞、新人賞、総合3位受賞。
(マガジンID:0000136378)

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