[映画の精神医学]


 トゥーム・レイダー
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 「これぞ映画だ」と言いたくなる痛快な娯楽アクションを久しぶりに見た。
 アクションがすごい映画というのはたくさんあるが、アクションの見せ方がうまい映画となると、これがほとんどなくなってしまう。予算が大きくと俳優のギャラと大掛かりなセットに消えてしまい、高いクオリティの映像作りにはお金が向かわない。

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 そうではない映画の代表が『マトリックス』である。アクションをいかにみせるか。そして、それを映画的、映像的にどうおもしろく見せるのかにこだわっていた。
 そしてこの『トゥーム・レイダー』も、アクションをどう見せるか、どう映像化するかに非常にこだわった映画である。
 その中でも一番良いのは、カット割である。カットの割り方が、とにかく凄い。ロープにぶら下がっている人が落ちるという描写。普通なら一カットか二カットで処理されるその描写が、四、五カットくらいかけて描かれる。映像の迫力が凄いのだ。
 圧巻は阿修羅像と戦うシーンである。木の杭のブランコで勢いをつけるところのカメラが凄い。六方向くらいからカメラでとったものをうまく編集してつないでいる。アクション映画や冒険映画にありがちなシュチエーションだが、映像としての見せ方がうまいので、手に汗握るスペクタクルに仕上がっている。 とにかく『トゥーム・レイダー』は、映画だ。この意味がわかるだろうか?
 映画的なおもしろさにあふれているということだ。例えば、「伏線」の張り方がまたうまい。
 『トゥーム・レイダー』に関して、説明不足でよくわからないという批判も見られるが、これらは「伏線」と「映像的表現」によって全て説明されている。映画をあまり見慣れていない人は、セリフによる説明に頼りがちである。しかし、映像で説明してしまうのが、映画表現というものである。

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アンジェリーナ・ジョリー
最高 ! !


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アクション
かなりいけてます

 例えばラストの爆破から逃れたララが、洞窟から出で来た時、そこに丁度良く犬ぞりが待ち構えていた。皆さんは、これを見てどう思ったか? 「何と都合のよいところに犬ぞりがいるんだ」と思っただろうか。しかし、ここで犬ゾリが待っていたのは映画的必然である。船に乗って冒険に出発する前に、ララは犬たちをなでて可愛がっていた。動物ときんちとコミュニケートしていたララだからこそ、犬たちは忠実に新しい主人の帰りを、洞窟が崩れようとするのに待っていたということである。これぞ「伏線」である。
 例えば、ララがあまりにも強すぎるとか、次々と謎を解きすぎることに、リアリティをそぐと感じた人もいるかもしれない。しかし、その説明のうまさに舌を巻く。ファースト・シーンがそうである。強力なロボットを相手にシュミレーションの戦闘を毎日のように行う。そして、日常的な体力トレーニングも欠かさない。
 カンボジアで少女に現地語でさりげなく話し掛けるシーンがあるが、このシーンがいい。映像的に美しいというだけでなく、ララがカンボジアの言葉にも精通しているということで、ララの知識の広さ、深さを全て説明しているのだ。
 また、ララが蝶が遺跡に入っていくのを見つけて、そこに通路があることに気付く。この描写もなかなかいい。彼女が蝶の動きに目をとめたのは、彼女が自然と一体となったから。ララは侵入者でありながら、異物ではない。その土地や自然に馴染む努力が随所に見られる。自然や現地の人とコミュニケートすることで、他のレイダーが得られない貴重な情報を獲得するのである。
 ララの敵は「イルミナティ」というのが、また壮大で良い。「イルミナティ」についての説明が少なく、一体何なのかわからないという意見があるが、これは知らない方が悪いのではないか? というか、三角に目の印。これを見れば、イルミナティが黒幕であることは、犯人が正体を現さなくてもわかるだろう。少なくともアメリカ人にとっては。イルミナティのマークは、アメリカ1ドル札にもはっきりと印刷されている。そんなわけで、「イルミナティ」の陰謀説というのは、アメリカ人であれば説明しなくても知っているのが当たり前というわけで、説明していないとうわけ。
 世界中を舞台に飛び回るスケールの大きさ。米軍のヘリでカンボジアまで送ってもらってしまうという、これまスケールの大きい話。これを笑って楽しめるかどうかか、『トゥーム・レイダー』の試金石のように思える。
 ララ・クロフトは、もともとはゲームのキャラである。しかし、これはゲームの映画化ではない。新たな、『トゥーム・レイダー』という映像世界を見事に構築している。そして、その世界はゲームでなく、間違いなく映画である。そこのところが、ゲームをもとにして映画化したのに出来上がった映画もゲームを域を出なかった『ファイナル・ファンタジー』とは大きく異なる。
 『トゥーム・レイダー』の評価は、真っ二つに分かれている。その理由は既に述べた。『トゥーム・レイダー』は「これぞ映画だ」と言わんばかりに、映画のおもしろさが詰め込まれている。逆に言うと、映画を見慣れていない人には何がなんだかわからないと言えるかもしれない。カット割が多くなると、何が起こっているのかも追えなくなる。細かい説明は映像やララのちょっとした動作で示されているので、わかりずらいということにもなる。私にしてみれば、これだけわかりやすい映画もないとは思うのだが・・・。

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このシーンがいい!!

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父親の疾走の謎
映画に厚みを持たせる
重要な描写だ

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カンボジアから北極まで
このスケールがでかさがいい

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木のブランコのシーン
カット割りが凄すぎる

 いくつか不満な点を上げるとすれば、シーンとシーンの切り替えが、スパッとしていないということ。U2のテーマ曲は良いが、劇中での音楽が場面をもっと盛り上げていいように思った。
 私が考えるアクション映画の一つの理想系を『トゥーム・レイダー』は、体現している。と言っては大げさだが、『マトリックス』以来、久しぶりに痛快な娯楽アクションを見たという感じだ。

 

 

シカゴ発 映画の精神医学
アメリカ、シカゴ在住の精神科医が、最新ハリウッド映画を精神医学、心理学的に徹底解読。心の癒しに役立つ知識と情報を提供ています。
 人種、民族、宗教などアメリカ文化を様々な角度から考察。
 2004年まぐまぐメルマガ大賞、新人賞、総合3位受賞。
(マガジンID:0000136378)

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