「シカゴ発 映画の精神医学」

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       シカゴ発 映画の精神医学

  ●第24号●   2004年11月30日発行              
 
    発行者 :    樺沢紫苑 
   発行部数 :      2540部
  発行元サイト: http://www.kabasawa.jp/eiga/home.html
   
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    【 目 次 】
■1 はじめに 
■2 日本で一番早い!!  アメリカ最新映画紹介 (ネタバレなし)
           「ナショナル・トレジャー」 
■4 精神医学の目 (ネタバレなし) 日記療法、あらためブログ療法       
■3 読者の凄い解読 (ネタバレ)     「2001年宇宙の旅」    

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■1 はじめに
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 サンクス・ギビングの連休で遊びすぎてしまったため、発行が1日遅れてしまいました。
 すいません。

 サンクス・ギビングは、なかなかの盛り上がりでした。
 サンクス・ギビングのバーゲン・セールというのがあるのですが、朝6時から11時まで。
 朝、早すぎ。買い物は、家内にまかせて、私は昼から外出しました(笑)。

 クリスマスツリーの点灯式が、なかなかよかった。
 シカゴ市長も登場したし、クリスマス・ソングの合唱とか、もりだくさんで。
 まだクリスマスまで1ヶ月もあるのに、早いですね。準備が。
 クリスマスは、アメリカではかなり重要な儀式のようです。

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役┃に┃立┃た┃な┃い┃駄┃話┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
          雑┃学┃・┃豆┃知┃識┃な┃ど┃募┃集┃中┃
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 気楽に読めて、「おもしろい雑学」が毎日紹介されます。
 「トリビアの泉」が好きな人は、とても楽しめるでしょう。
 友人や恋人との話題作りにももってこいです。(樺沢)

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■2  日本で一番早い!!  アメリカ最新映画紹介 (ネタバレなし)
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┌──────────┐
  ナショナル・トレジャー      2005年3月15日公開予定 11月19日アメリカ公開 
└──────────┘
 
 ブラッカイマーのプロデュース作品にしては、おもしろい。
 あるいは、ニコラス・ケイジにしては、カッコいい。
 なんて言うとあまりおもしろそうじゃないなあ・・・。

 アクションシーンのないインディ・ジョーンズ。

 この方が、いいかな。
 
 ニコラス・ケイジ演じるトレジャー・ハンターが、フリーメーソンのお宝を探すという物語。
 そのお宝をめぐった謎解きが、なかなかおもしろい。
 
 ところで、みなさんは、フリーメーソンってご存じです?
 名前くらいは知っているでしょう。
 でも詳しく説明できる人は、あまりいないかもしれませんね。

 でも、知ってなくても全く困りません。
 劇中で、必要な知識は説明されますから。

 私は大学生くらいのときに、フリーメーソンの陰謀説に、ずいぶんとはまってフリーメーソン
と名のつく本はだいたい持っています。
 まあ、だからこの映画のディテールに関しては、いろいろと言いたいこともありますが、
公開後にまた詳しくとりあげましょう。

 メーソンについて良く知っている人にとっては、この映画の展開は予想の範疇です。
 逆に、メーソンについて知らない人が見ると、「えっ、意外」と驚くか、「何なの、コレ」と
ついていけなくなるか、どちらかだと思います。
 
 脚本自体はとてもよくできているし、恋愛感情や親子の愛情みたいな人間部分もしっかり
描けている。そして、適度な笑いもある。
 娯楽映画としては、合格点。
 1800円くらいは十分に楽しませてくれる映画といえるでしょう。
 
 ただこの手の映画で、アクション・シーンがないというのは、結構つらい。
 どうしても、展開が地味になってしまう。

 それに、ニコラス・ケイジが、カッコよすぎる。
 ダメ男の ニコラス・ケイジの方が、私は好きだ。 

 お薦めする人
・カッコいいニコラス・ケイジが見たい人
・フリーメーソンに興味津々の人
・謎解き映画が好きな人

期待はずれになる人
・俺はフリーメーソンに詳しい、という人
・アクションを期待する人

樺沢の評価 ★★★☆  (★5個が満点)

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英語嫌いを克服しTOEIC935、英検1級、TOEFL600を達成した作者によるメルマガ
・大人気海外ドラマ、フレンズなどで使われた自然な英語表現の解説。
・作者の経験からできた効率的な英語学習法紹介。
詳しくはこちらまで→ http://www.mag2.com/m/0000094089.htm

 映画や海外ドラマからの例が多いので、映画好きのみなさんは、楽しく英語が学べると
思います。 (樺沢)

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■3 精神医学の目 
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  日記療法、あらためブログ療法
└─────────────┘ 
 
 前回は、日記療法についてでした。
 あなたも日記をつけてみては? とお薦めしました。

 しかし、最近の人で、日記帳に日記をつけている人は、珍しいと思います。

 現代の日記。それは、「ブログ」です。
 「ブログ」は、おそらくほとんどの人は、すでにご存知でしょう。
 「ブログ」では、ホームページの知識がなくても、雛形にあわせて簡単に自分のサイトが
無料で持ててしまいます。
 自分の日記や最近の出来事をアップしている人が多いようです。

 私も、ブログをやりたいと思っていますが、このメルマガが忙しくて、ちょっと時間がありません。
 多分、そのうち始めるでしょう。

 ブログというのは、非常に「良い」と思います。
 それは、精神医学的に見て、「治療的」である、という点でです。
 「ブログ」を作って続けることは、精神的な「癒し」に通じる可能性があります。
 
 その理由は、以下の通りです。

1 自己洞察が深まる

 毎日文章を書く。
 文章を書くと洞察力が深まります。
 これは、間違いない。
 
 私も毎日、数時間。ここ十年以上、ほぼ毎日続けていますが、書けば書くほど洞察力が
深まっていくのを実感します。

2 毎日続けやすい

 しかし、日記や文章を、毎日書き続けるというのは、大変なことです。
 人に読まれない文章を書くのは、たいへんつらいわけです。
 しかし、毎日読んでくれる人がいる、と思うとやる気が出てきます。
 モチベーションが高まるということです。

 そして、ブログであれば、ホームページよりも簡単に更新できます。
 
 ブログは毎日続けやすい、ということが言えるでしょう。
 
3  自分が表現できる

 前前号の、「シャル・ウィ・ダンス」では、自分を表現することの大切さを紹介しました。
 自分を表現できるという点では、何でも良いのですが、気軽に始められて、お金も
かからないということで、ブログは非常に優れていると思います。

 「表現する」、それだけで楽しいのです。
 ブログをやっている人はわかるでしょう。
 この点は、メルマガも同じですが・・・。
 
4 トラックバックによるポジティブ・フィードバック 

 私のメルマガもそうですが、応援メールをもらうと、非常にやる気がわいてきます。

 ブログには、トラックバックという機能があって、他の人からのコメントがつきやすいのです。
 中には、「荒らし」のような人を不快にするコメントもないわけではないですが、多くの
トラックバックは、そのサイトに対する賛成意見であったり、ポジティブな建設的な意見で
ある場合が多く、非常に励まされるわけです。

 こうした、プラスの評価を受けることを、専門用語ではポジティブ・フィードバック
といいます。

 頑張ってやる→ 誉められる → 余計頑張る  

 こうした、プラスの連鎖が期待できるわけです。 

 応援のカキコミがあれば、それは自分自身の人格を誉められているのと同じように
感じられます。
 うれしくなって、ついついがんばってしまう。
 楽しく、続けられる。

 このように、ブログには精神医学的にみても、多くのメリットを持っています。
 
 使い方によっては、ある種の治療ツール。
 あるいは、自己啓発ツールになりうるのではないか・・・と、
 そんな、いろいろな可能性もありえます。

 つまり、日記療法、改めブログ療法なんてのが、登場するかもしれません。

 まあ、こんなことを考えるよりも、私もまず始めてみないとなあ・・・。

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 読者の皆さんの中には、実際に精神科に通い、心の病と戦っている方もいるかと思います。
 「映画の精神医学」でも、「癒しの方法」について常に紹介していますが、もっと具体的で
実践的な方法を知りたいという方は、『精神科医熊木徹夫の「臨床公開相談」』
http://www.mag2.com/m/0000139489.htm  をお薦めします。
 メルマガでとりあげられるのは、よくある相談内容ですから、同じような悩みを持っている人も
多いと思います。このメルマガには、たくさんの「癒し」のためのヒントが詰まっています。(樺沢)

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■4 読者の凄い解読  (ネタバレなし)
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   2001年宇宙の旅           投稿者  Oneさん
└─────────────┘ 

 私はこの映画を何度も見た。おそらく10回以上は見ていると思う。
初めて全部通して見たのは高校生の時であった。
中学生の時一部だけ見たのだが、それからなんとしても全体を通してみたいと思い
続けていた。念願かなって全体を見通した時は、言葉には表現できないが、
大きな感銘を受けたことを覚えている。

 そもそもこの映画は言葉で表現する類のものではない。
言語や論理的な左脳よりも、感覚や直感の右脳中心で見るものである。
キューブリックも神や何らかの大いなる存在を感じることができれば、この映画は成功した
のだ、というようなことを言っている。この作品はよく難解だと言われるが、それは見なが
らごちゃごちゃと考えすぎてしまうからであろう。

 ストーリーはシンプルであり、テーマは明白である。地球外生命体の存在を確認し、
探索にいくという簡単に言ってしまえば、そういった物語である。
そしてその存在と遭遇し、次なる段階へ進化していく、もちろん人によって解釈は
違うが、私はこのように理解した。

 地球外生命体に遭遇するというと、エイリアンにでも遭遇するのか、というような
イメージを抱いてしまうが、そういったものは一切出てこない。
 神の視点から人類を見つめているだけである。
 そしてこの作品の特徴として、人類が神や超越的な存在とただ遭遇するだけでなく、
次の段階へ進化していく過程を表現しているところにあると思う。

 キリスト教では神に祈り、神の恩寵を受けるというものであるとも言えるが、
仏教やヒンドゥー教や仙道などの東洋の宗教や哲学は、人間が神となり、神をも超えて
いくことができるとし、その実践方法もある。この作品ではボーマン船長が映画の
最後で老い、病、死のプロセスをたどり、そこから新たなスターチャイルドとして生まれ
変わるところで終わる。これはキリスト教よりも、東洋の宗教や思想と一致するように思えた。

 ラストで主人公が新たに生まれ変わるわけだが、その前のディスカバリー号が木星へ
至る途中で、そのことを示唆する描写があると思った。
 これは監督が意図したものであるかはわからない。
 それは何かというと、光の中を進んでいき、その後白いものとと赤いものが空間に
広がっていた。
 これはわたしは精子と経血の象徴ではないかと思った。
 密教では、人が死にゆく時に白と赤のエネルギーが混ざり合い、次の転生へと至る
とされる。
 白いエネルギーは精子の象徴でもあり、赤いエネルギーは経血の象徴である。
 ひょっとしたらキューブリックは、意図せずして密教で説かれる内容をこの映画の中で
表現したのではないかと感じた。
 これはあくまでも私の憶測であるが、大いなる存在がキューブリックを借りて、
秘儀でもある内容を表現したのかもしれない。

 この映画は万人向けとはとても言えない。初めて日本で公開された時、家族向けの
映画と宣伝されて、見に来た人たちが非常にとまどったという話である。
 家族やカップルで見るには不向きである。
 しかし、やはりこの作品はSF映画を超えて、映画史上に残る金字塔であると思う。
 映画好きの人なら、何がなんだかわからなくても良いから、一度は見ておくべきもので
あろう。

この解読がおもしろいと思った人は、oneさんのサイトをのぞいて見ましょう。
 こちら↓↓
http://plaza.rakuten.co.jp/oneness0/

 [樺沢コメント]
>そもそもこの映画は言葉で表現する類のものではない。

 全くそのとおりですね。
 「難解」と呼ばれる映画の多くがそうであるように、感じたそののままに理解するのが、
一番正しい見方だと思います。

 したがって、言葉で説明すればするほど、本質からずれていってしまう。
 逆に言えば、映像で表現するのが最も適切であるからこそ、テーマを言語化することに
よって、ズレが大きくなっていく。
 だからこそ(映像で全てを言い尽くしているからこそ)、「2001年」は傑作なのでしょう。

 こうした理由から私は、「2001年」の解読は書いたことはありませんが、キーワードを
拾えば「進化」「人間とは?」「高次なる精神存在(Higher mental power)」「輪廻転生」
でしょうか。
 すなわち、Oneさんの解読とほぼ同じです。

 「人間とは?」のテーマについては、言及がなかったので補足しておきましょう。
 「人間とは?」 好戦的存在である、ということなのでしょう。
 ファーストシーン。猿から人間へと進化。それは、道具を使えるようになったから。
 しかし、道具を武器として使っている。コンピューターHALが、人間に反旗を翻すのも、
人間の好戦的行動パターンを学習したからでしょう。
 
 「2001年」で我々に突きつけているのは、武器や攻撃性と無縁に人間は進化できるのか?
 ということ。
 逆にいえば、性能の高い兵器を開発するためにテクノロジーを進化させてどうするの?
 精神の進化はどうなっているの? そんな感じでしょうか。
 
 人間の持つ、攻撃性や暴力。「博士の異常な愛情」や「時計じかけのオレンジ」にも、
通じるテーマです。「2001年」がどうしてもわからないという人は、その他のキューブリック

作品を見ると、テーマはおのずと見えてくると思います。

 なんだ、ずいぶんと言葉で説明してしまった(笑)。

 みなさんも、「凄い解読」に投稿しませんか。
 すでに、みなさんのサイトやブログにアップされているものと、同じものでも構いません。
 投稿規程は、コチラ↓↓↓
http://www.kabasawa.jp/eiga/dokusyakaidoku.html

 なお、掲載者への特典が一つ増えました。
 「シカゴ発 映画の精神医学」のリンク集に加えさせていただきます。
http://www.kabasawa.jp/eiga/page/link.htm
 これにより、継続的にサイトの紹介ができます。


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■ 発行者: 樺沢紫苑
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 映画の見方は、人それぞれです。このメルマガは、発行者の個人的な見解であり、
他のいろいろな考え方を否定するものではありません。
 みなさんから、お送りいただいメールは、メルマガ上で紹介するかもしれません
(匿名、ハンドルネームで)。
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     シカゴ発 映画の精神医学

  ●第1号●   2004年7月23日発行                
                
    発行者     樺沢紫苑 
  発行元サイト: http://www.kabasawa.jp/
   
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    【 目 次 】
■1 はじめに
■2 今週の映画紹介(ネタバレなし) 「キング・アーサー」 
■3 今週の映画分析  「スパイダーマン2」  スパイダーマンはキリストだった
■4 精神医学の目    「スパイダーマン2」  ピーターの精神医学的診断は?
■5 映画をもっと面白く見る方法(ネタバレなし)  映画をたくさん見よう その1
 
※注意 「ネタバレなし」の記載のない項目は、映画の詳しいストーリーや結末につ
いて書かれています。映画を未見の方は、ご注意ください。
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■1 はじめに

 はじめまして。 「シカゴ発 映画の精神医学」へのご登録ありがとうございます。
 発行人の樺沢紫苑と申します。北海道の方はご存知かと思いますが、全国の方はお
初にお目にかかる方が多いと思います。
 さて、カレーの食べ歩きサイト「札幌激辛カレー批評」やスターウォーズ研究サイ
ト「ホス・プレス」など、ホームページは5年以上やっていますが、メルマガは今回
が初めてとなります。
 
 メルマガをはじめた理由はいくつかあります。 
 今年の4月からアメリカのシカゴに来ていますが、日本にいる時もよりも時間の余
裕ができ、週2本くらい映画を見られる環境になった、ということ。
 そして一番の動機は、映画の掲示板などでいろいろな人の感想を読んでいて、あま
りにも否定的な意見が多かったり、映画を曲解している人が多いことです。アメリカ
映画というのは、アメリカ文化をある程度理解していないとわかりずらい部分があります。
 しかし、誰もそうした溝を埋めるべく適切なコメントを与えないために、映画自体
が死んでしまっている。
 これは、非常に悲しいことです。
「映画はもっとおもしろい」をキーワードに、いろいろな情報を提供していきます。
 もちろん、本業の精神科医の知識と経験を生かして、精神科医にしかできない考察
もありますので、お楽しみに。

 私と一緒に、人間の心理、そしてアメリカの文化や歴史を勉強しましょう。
 映画がおもしろくなるだけでなく、あなたの生き方にもプラスになるはずです。
 
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■1 今週の映画紹介 (ネタバレなし)
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┌───────────┐
    キング・アーサー           7月24日公開
└───────────┘
 
 映画を見る前には、できるだけ期待しすぎないように注意しているのだが、この手
の群集ものスペクタクルには目がないもので、ちょっと期待しすぎた感がある。
 前半の描写が地味すぎる。演出が暗い。セリフばかりだし、映像に工夫がないし、
淡々と進むし、眠気をこらえるのが大変だった。
 中盤からは、少しずつ勢いづいてきて、盛り上がっていく。
 ラストの決戦シーンに限れば、なかなか迫力はある。でも、もっと、もっと盛り上
げられるのではないかという気がしてならない。

 大規模な戦闘シーンとしては、「トロイ」に軍配。
 ただし「トロイ」と大きく異なるのは、CGをほとんど使っていないこと。実物大の
巨大な砦のセットを組んだり、実際に矢を放ったりと、CGに依存しないで頑張ろうと
いう姿勢は評価したい。
 あと、グウィネヴィア役のキーナ・ナイトレイがちっとも魅力的でない。女戦士と
しては、はまっているけど、彼女とは恋に落ちたくない・・・(私は)。

 一番辛いのは、アーサー王の伝説を全く知らない人が見ておもしろいかどうか? 
ということだ。私も、アーサー王伝説には、さほど知識が深くない、一人であったが
・・・。
 アーサー王が画面に出たとき、「この、アーサー王はちょっとイメージと違うな
あ」と言えるぐらいの人は、かなりおもしろく見られるだろう。
 
 冒頭の状況説明だけでは、この映画の時代背景について十分理解できない。それ
は、日本人にとってという意味で。欧米人にとっては、この辺の歴史は、周知の事実
だから、「欧米人の常識」ということで説明は省略されているのである。
 しかし、多少は歴史的背景を知っていないと、人物にも感情移入しづらい。
 逆に、アーサー王に興味がある人や、アーサー王に詳しい人が見れば、独創的な
アーサー王伝説の解釈に、いろいろとおもしろみを見出すこともできるだろう。

 全体の雰囲気からして、娯楽映画というよりは、歴史映画という感じなのだ。
 正確に言えば、想像の歴史映画だ。
 歴史映画という視点では、いろいろと議論すべき興味深い点も多いのだが、夏休み
映画として「とっても楽しい娯楽映画を見て、ハッピーになりたい♪」という人に
は、向かないだろう。
 とはいっても、次回の「今週の映画分析」は、「キング・アーサー」をマニアック
に語ります。

是非見て欲しい人
・アーサー王について興味がある人。
・アーサー王伝説にいて、簡単にでも内容を知っている人
・地味な映画が好きな人
・CGに頼らない、群集シーンが見たいという人
・クライヴ・オーエンのファン
・強い女性が好きな人

期待はずれになる人
・「アーサー王って誰?」という人
・大がかりな史劇スペクタクル、アクション映画が好きな人
・高校で、日本史を選択した人(世界史を選択しなかった人)
・派手な映画が好きな人

 樺沢の評価 ★★1/2  (★5個が満点)

◇◇「キング・アーサー」のアメリカ事情◇◇

 アメリカ人の反応はクールだ。公開初日の金曜の夜に見た。人気映画であれば、行
列が出来るはずだ。実際、「トロイ」も公開初日の金曜の夜に見たのだが、2時間先
の上映時間(30分おきの上映なのに)まで完売して、さらに行列が出来ていた。
 そんなこともあって、「キング・アーサー」の時は、上映開始45分前に劇場に来た。
 場内に入って驚いた。客が二人しかいなかった。

 結局、上映開始時間には、満員に近い客の入りとなったが、客の食いつき具合が違
う。だいたい、映画館自体があまり「キング・アーサー」に力を入れていない。
 「キング・アーサー」と同日公開したコメディ映画「アンカーマン」の方が、上映
回数が2倍以上も多いのだ。

 映画館に行く前に書店に行ったが、「アーサー王伝説」のコーナーはなかった。
「トロイ」の時は、ホーマーの叙事詩「イリアス」が平台に山積みされていたの
に…。
 だいたい、アメリカ人はイギリスの歴史などには全く興味がないのだろうし、
「アーサー王と円卓の騎士」の伝説自体に、好奇心をそそられないかもしれない。

◇◇これから、「キング・アーサー」を見ようと思う人へ◇◇

 紀元400年頃のイギリスの状況やアーサー王伝説について、多少予習しておくと、
より映画がおもしろく見れます。
 以下、お薦めサイトです。 

「アーサー王伝説とケルト伝説」
http://www.chitanet.or.jp/users/10010382/Index.html-ssi

 特に、以下の知識については、知っておいた方が良いでしょう。

サクソン人
 アングロ・サクソン人と同じ。
 「アングロ・サクソン人は、5世紀ごろ、現在のオランダ付近よりグレートブリテ
ン島に侵入してきたアングル人、ジュート人、サクソン人のゲルマン民族の3つの部
族の総称である。この中でサクソン人がイングランドの基礎を築いたため、アングロ
・サクソン人を単にサクソン人と呼ぶことも多い」

ブリテン人
 ケルト人と同じ。ケルト人は、「もともと先史時代のヨーロッパに広く住んでいた
が、ローマ人やゲルマン人に圧迫されて西方に移動した。 現在その子孫は、アイル
ランドやフランスのブルターニュ地方、イギリスのウェールズ地方やスコットランド
に住む」
http://ja.wikipedia.org/wiki/
(以上「ウィキペディア」より引用)

 ちょっとした知識ではあるが、これを知って映画を見るのと知らないで見るのと
は、印象は相当変わるだろう。
 アーサー王について知っていればいるほど、「キング・アーサー」はより楽しめる。
 間違いない♪(長井秀和調で)。

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■2 今週の映画分析
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┌──────────┐
   スパイダーマン2       ◇◇スパイダーマンはキリストだった◇◇ 
└──────────┘

<パイロット版に大幅加筆しています>

 「スパイダーマン2」が、コメディ映画だったとは知らなかった。普通のコメディ
映画より、よっぽど笑ってしまった。
 映像的にも迫力があるし、主人公ピーター・パーカーの切実な葛藤は良く伝わっ
た。
 エンターテイメント性も十分で、夏休み映画としてはお勧めの作品である。

 「スパイダーマン2」には、いろいろな映画のパロディ(あるいは引用)が入ってい
て、映画ファンには非常に楽しい。
 ビルとビルの谷間を走って飛び超えようとするが、届かずに落下するシーン。これ
は、「マトリックス」のパロディである。「飛べるはずない」という常識に支配され
て、「飛べる自分」を信じられなかったネオ(キアヌ・リーブス)は、同様に地面に落
下した。今では、「マトリックス」よりも、窪塚洋介君の顔が浮かぶかもしれません
が・・・。
 自動車が飛んでくるところを、間一髪でかわすところ。これも、敵の攻撃や銃弾を
ギリギリのところで見切ってかわす、ネオにそっくりだ。

 序盤のピーターのドジぶり。間の悪さ。ダメ人間ぶりは、人間界でのハリー・ポッ
ターを思い出す。本当はすごいヒーローなのだが、普段の人間としての日常生活は、
全くのダメ夫くんという点が、共通している。
 ドク・オクの登場シーン。まず、ズシン、ズシンという足音と地響きが先行し、本
人が正体を現す。これは、「ジュラシック・パーク」あるいは、「ゴジラ」のパロ
ディだろう。

 一番笑えるのは、ドク・オクが手術室で、医者や看護婦を殺しまくるシーン。この
シーンだけカット割りや映像のトーンが明らかに異なるが、これはサム・ライミの自
らの出世作「死霊のはらわた」、そのまんまである。引きずられるのを爪を立てて防
ごうとするところ。チェンソーを使って反撃するところなど、全く同じである。

 しかし、この映画の中で、最も重要なパロディを見逃してはいけない。ダスティン
・ホフマン主演の「卒業」(1967年)だ。
 大学の卒業を控え複雑な気分の主人公ベンは、エレーンに思いを寄せる。いろいろ
な障壁があって、ベンとエレーンは引かれあいながらも、エレーンは別な男と結婚す
ることになる。エレーンへの思いを捨てられないベンは、結婚式をしている教会へと
乗り込みエレーンを連れ去る。
 このクライマックスのシーンは、あまりにも有名。

 ピーターとMJ、二人は引かれあいながらも、思いをうまく伝えられない。
 スパイダーマンの活動のせいもあり、二人の溝は広がっていく。
 そして、MJは結婚することになる。
 ピーターがMJを結婚式場から連れ去るシーンはさすがにパクらなかったが、ウェ
ディングドレス姿のMJとピーターが抱き合うシーンは、「卒業」そっくりだ。

 映画中盤の、ピーターがスパイダーマンを辞めることを決めた直後、眼鏡をかけ
て、ホットドッグを買い、街を闊歩してストップモーションで終わるシーン。これは
音楽、撮影の仕方などが、「卒業」を含めた60年代後半から70年代に流行ったアメリ
カン・ニューシネマのパロディとなっている。

 「そんなこと、わざわざ指摘されなくてもわかるよ」と映画マニアからは言われそ
うだ。
 では、「スパイダーマン2」のピーターの生き方に、イエス・キリストがオーバー
ラップして描かれていたことには気付いただろうか?
 
 一番象徴的なシーンから指摘しよう。暴走する電車を止めようと、糸を左右に伸ば
す。両側から強力な力で引っ張られたピーターは、電車の前面に磔(はりつけ)になる
(キリストの磔刑)。苦悶の表情を浮かべ、瀕死のダメージを受ける。丁度、体型も十
字架状であるし、「電車の人々を助けるために自らが犠牲となる」、というその精神
もキリストに通じる。

 意識不明となって死んだような状態となったピーターを助け起こす
(キリスト降架)。
 しかし、死んだと思われたピーターは息を吹き返す(キリストの復活)。
 畏敬の念でピーターを見つめる乗客たち。
 電車に乗った人々は、スパイダーマンの自己犠牲精神に心を打たれ、自らドク・オ
クの前に立ちはだかり、スパイダーマンを守ろうと、自己犠牲精神を発揮する(キリ
スト教精神)。

 その次のシーンでは、鉄条網のようなもので縛られたスパイダーマンを、ドク・オ
クがハリーのもとに運ぶ。鉄条網のように見えるが、これはキリストの頭に載せられ
ていた「イバラ」にそっくりである。

 考えてみれば、この「スパイターマン2」の全てが、キリストの生き方をなぞらえ
ている。
 ピーターは、自分がスパイターマンになってしまったという運命(天命)に疑問を抱
き、スパイダーマンを続けて行くかどうか迷い悩む。悩んだ結果、スパイダーマンと
いう運命を受け入れることを決める。
 自らが救世主として選ばれた運命に、悩み苦しみながらも、最後にはそれを受け入
れて、十字架にかけられ、自らの運命を受け入れたキリストと同じである。
 
 ヒーローに救世主のイメージが重ねられるというのは、「マトリックス」「Xメン」
「ロボコップ」その他多くの映画に見られる。この映画がアメリカ人に受け入れ
られやすい一つの理由を、こんな聖書がらみの描写にも見出すことができる。 

<以下追加>
 「スパダーマン=キリスト」という視点で、「スパイターマン2」を見れば、もっ
とおもしろい発見ができるだろう。
 すなわち、「ドク・オク=パウロ」で、「MJ=マグタラのマリア」、「ハリー=ユ
ダ」である。
 
 ユダヤ教のラビであったパウロは、キリスト教弾圧の先導者であった。
 しかし、復活したイエスと出会い、心を打たれた彼は回心する。
 その後パウロは、数々の弾圧と戦いながら自己犠牲をいとわずキリスト教普及に邁
進する。
 スパイダーマンを恨み、スパイダーマンを攻撃するドク・オク。
 しかし、復活したスパイダーマンの説得に、自らの科学者としての初心を思い出
し、回心する。自らが犠牲となって装置を破壊するのだ(キリスト教的自己犠牲精神
の実践)。
 
 これだけなら、「偶然でしょう」と一蹴される。しかし、パウロ回心の場面では、
パウロは天からのイエスの声を聞く。
 ドク・オクがスパイダーマンを発見した時、スパイダーマンは天井にはりついてい
た。
 まさに、ドク・オクはスパイダーマンの天の声を聞くのだ。

 MJは、「Mary Jane」の略。「Mary」の語源は、「マリア」である。この場合は、
聖母マリアではなく、イエスの恋人説もささやかれる、マグダラのマリアということ
になろう。
 
 ピーターのかけがえのない親友の一人であるハリー。
 しかし、その最も親しい親友が、次作ではピーターを裏切って、スパイダーマンに
襲いかかる(多分)。
 キリストの使徒であったユダ。しかし、ユダはキリストを裏切り、ユダヤの祭司長
へ、イエスの居場所を教え、イエスを引き渡すこととなる。
 
 以下の「スパイダーマンはキリストだった」樺沢サイト補足ページでは、画像入り
でわかりやすく説明してありますので、参考にしてください。
http://www.kabasawa.jp/eiga/page/spideman2_hosoku.htm
<追加分終了>

 前作スパイダーマンは、アクションヒーローものであったが、今回はサム・ライミ
の遊びの部分がとっても増えている。二作目のジンクスというのがあって、一作目で
大ヒットした映画は、二作目では一作目をしのげないというものだ。
 「ターミネーター2」「エイリアン2」といった作品は、第一作とかなり趣を変える
ことで、「二作目のジンクス」を打ち破ることのできた、数少ない映画である。

 この「スパイダーマン2」はどうであろうか? あまりのお遊びについていけない
という人もいるかもしれないが、前述のような映画ファンを楽しませる趣向や、キリ
スト教的な描写を加えることで、前作の単なるヒーローアクション映画よりも、奥深
い映画に仕上がっているように思える。個人的には、この二作目の方が好きだ。
 ただ、前作の興行収入が半端じゃないだけに、それを超えるの難しい気もする。
 
 アメリカでの反応だが、「バーガー・キング」でスパイダーマンがらみのフェアを
やっていたり、スーパーのシリアルやお菓子などで、スパイダーマンのグッズ付きの
ものが売られたり、書店でスパイダーマンのコミックス並べられていたりと、結構、
街の中でもスパイダーマン関係のものを見かける機会は多い。
 スパイダーマンは、アメリカ人のヒーローなのだな、と実感する。 

「スパイダーマン」DVD
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00024Z5NG/hothpress-22
「卒業」DVD
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005HARH/hothpress-22
「死霊のはらわた」DVD
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00009XMN3/hothpress-22

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■3 精神医学の目
──────────────────────────────────
┌───────────┐
     スパイダーマン2       ◇◇ピーターの精神医学的診断は?◇◇
└───────────┘
 
 スパイダーマンの重責が、ピーターの肩に重くのしかかる。
 スパイダーマンのお仕事に時間をとられてしまい、アルバイトや学校、そして一番
楽しみにしていたMJの舞台にまで遅刻してしまう。さらには、ぼやーっとしたり、注
意散漫になったり。スパイダーマンとして、糸が出なくなったり、壁に張り付く能力
まで低下してしまい、実際に目がぼやけるなどの身体症状も出現する。
 体調不良を自覚したピーターは、病院にかかるが、そこでは精神的なものが原因で
あると言われてしまう。

 さて、精神医学的にみて、ピーターの診断は何だったのだろう?
 結果から言えばうつ病ということになるが、「だいたいもうつ病の症状って、どん
なの?」と、疑問に思う人も多いはず。

 以下、精神科のドクターが日常的に使用している、DSM-4という診断基準から、大
うつ病の診断基準というのを抜粋する。

--------------------------------------------------------------------
 以下の症状のうち5つ以上が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こ
している;これらの症状のうち1つは、1.抑うつ気分または2.興味または喜びの喪失
である。
(1) ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
(2) ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動におけ
る興味、喜びの著しい減退
(3) 著しい体重減少、あるいは体重増加、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加
(4) ほとんど毎日の不眠または睡眠過多
(5) ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止
(6) ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退
(7) ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感
(8) 思考力や集中力の減退、または、決断困難がほとんど毎日認められる
(9) 死についての反復思考、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、自殺企図、
または自殺するためのはっきりとした計画
-------------------------------------------------------------------- 
 
 他の項目も続きますが、詳しく知りたい人は下記のページなどを参考にしてくださ
い。
http://www.depression-webworld.com/japanese/dsm-ivndx.htm

 簡単に要約すれば、上記の「1」と「2」のどちらかが必須症状で、上記9症状のう
ち5個を満たせば、大うつ病と診断されるわけだ。
 
 さて、これを「スパイダーマン2」のピーターに当てはめてみよう。
(1) 気分の落ち込み、陰鬱な気分(抑うつ気分)は、彼の暗い表情、さえない表情から
みて、存在していただろう。
(2) ピーターには毎日が楽しいという実感がない。スパイダーマンとしての業務こな
しても、充実感はないし、むしろ義務、お荷物のようになっている。MJに対する恋愛
感情を持つ余裕があるので、重度ではないが「興味・喜びの喪失」を認める。
(3)隣室の女の子が作ってくれた料理を完食していたので、「食欲低下」はなさそう
である。
(4)学校への遅刻も多いということは、「スパイダーマンの業務が忙しい」という意
味でもあるが、「実際に睡眠時間を十分にとれている」ということはなさそうだ。
ぼやっとした表情からも、睡眠障害はあったと考えられる。 
(5)焦燥、イライラなどはなかったようだ。「制止」というのは、考えが進まない。
考えが止まってしまうということ。冒頭のMJの看板を見ていて、考えがとまってしま
うというのは、「制止」と言えるかどうか、微妙なところ。
(6)今までは、毎日ハードなスパイダーマンの業務をこなせていた。それが出来なく
なってのは、体力低下、すなわち易疲労性などがあったためと考えられる。
(7)彼の心の中には、「なぜ自分だけがスパイダーマンになってしまったのか? な
ぜ、自分だけがこんなことを続けなくてはいけないのか」という気持ちが、あったは
ずだ。あるいは、「こんなことを続けていて、意味があるのか」という懐疑。自責
感、無価値感は明らかに認められた。
(8)ピーターの最も顕著な症状だ。彼の数々の不注意とミスは、集中力低下、注意力
の低下に起因している。
(9)死にたい気持ちはなかっただろう。

 さて、9症状中(3)(5)(9)以外の6症状は、存在していたと考えて良いだろう。。
 さらに精神医学的は、適応障害(はっきりとした精神的ストレスによる障害)を除外
しないといけない。ピーターのスパイダーマン稼業は、かなり以前から続いており、
スパイダーマンの重責というストレスは、ここ6ヶ月以内に始まったわけではなく、
適応障害にはあたらない。
 ということで、ピーターは大うつ病と診断される。
 
 さて、上記のうつ病診断の症状には含まれていないが、うつ病の初期症状として重
要なものがある。それは、「種々の身体症状」だ。軽症のうつ病では、精神症
状は軽く、身体症状が中心に現れてくるので注意が必要である。一般的には、不眠、
食欲低下を筆頭に、易疲労感、倦怠感、頭痛、肩こりなどの症状が多くみられる。
「最近体力がなくなった」「最近無理が効かなくなった」というのも、うつ病による
体力低下のためと考えられる。

 ピーターの、スパイダーマンとして糸が出ない。壁に張り付く能力の低下。跳躍力
の低下などは、そうした身体機能、体力の低下と考えられる。
 そして、「視力障害、調節障害」は、実際にうつ病の患者さんにもときどきある症
状だ。ピーターが病院に行ったのは、「視力障害」が出て、いよいよ困ったからであ
る。

 精神症状だけでは精神科の病院にはなかなかかかりずらいもので、実際の患者さん
も身体症状が出て内科の病院を受診し、そこから精神科の病院を受診する場合が多
い。
 他にも、「最近、遅刻や早退が多くなった」とか「今のままやっていく自信がな
い」というのも、うつ病の症状としてよく認められる。

 さて、このようにうつ病の症状について詳しく説明した。
 その理由は、「皆さんも、うつ病には注意してください」ということだ。
 うつ病というのは、自分から気付かないことが多い。身体症状が出たり、精神症状
が重くなってようやく気が付く。しかし、早く気付いて、早く精神科を受診した方
が、より早く治る。

 ピーターの不注意なミスは、笑いごとでは済まされない。社会人のうつ病の初期
症状の一つとして、「最近、仕事のミスが増えてきた」ということが、大変多い。
 もともと、頑張りやの人が、突然ピーターのようなダメ夫君に変わった場合は、う
つ病も考えなくてはいけないわけだ。
 
 アメリカの大規模な調査では、「一生に一度でも大うつ病を経験したことのある人
は全体の 16.2 % にのぼり、ここ1 年間に絞ってみてみると 6.6 % 」だという。
http://www.depression-webworld.com/japanese/news52ndx.htm
 約15人に一人が、ここ1年間でうつ病になっていたということだ。
 全く、人ごとではない。

 さて、「俺はいろいろ悩み事も多いがうつ病なんかにはならないぞ!!」と思う人も
多いだろう。実は、いろいろとストレスがかかっても、うつ病になりやすい人とそう
でない人がいるのである。
 そして、「スパイダーマン2」のピーターは、実はうつ病になりやすい典型的な性
格傾向だったのだ。 (次回に続く) 

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■4 映画をもっと面白く見る方法   (ネタバレなし)
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┌─────────────────────┐
 映画はたくさん見ればみるほど、よりおもしろくなる    その1     
└─────────────────────┘

 淀川長治という偉大な映画評論家がいた。
 「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」のおじさんである。
 大学生の頃は、正直言って淀川さんが大嫌いだった。
 「なんでこの人は、どの映画も誉めるのか? 映画会社の回し者か?」
 しかし、私も40歳近くになり、多くの映画を見て、少しだけ淀川さんの心境を理解
するに至った。

 どんな映画でも、見所やおもしろさがあること。そしてそれは、多くの映画を見な
いと、気付きづらいということである。

 上記の「スパイダーマン2」の批評を読まれたと思う。
 あなたは「マトリックス」「ハリー・ポッター 賢者の石」「死霊のはらわた」
「卒業」のうち、何本見ているだろうか?

 ここで質問である。これらの作品を一本も見ていない人と、四作品全て見ている
人では、どちらが「スパイダーマン2」を楽しめるだろうか? 

 もちろん、答えは四作品見た人だろう。。
 基本的なおもしろさは変わらないとしても、四作品見た人は、その分だけパロディ
に気付いて、付加的なおもしろさを楽しむことができたはずだ。
 こうした、他の映画のパロディなり、オマージュなり、引用というのは、あらゆる
映画に無数に存在する。そうしたものが、たくさん映画を見ることで、どんどんわか
るようになって来る。

 したがって、少ししか映画を見ない人よりも、多く映画を見ている人の方が、一本
の映画を見るに当たって、より作品を楽しんでいると、言えるだろう。  (続く)

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■5 編集後記
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 さて、こんな長いメルマガを作ってしまって大丈夫だろうか?
 二、三回発行して終わるとか・・・そんなことはあり得ません。
 まだまだ、私のふところは深いのでご安心ください。
 ネタは、無数にありますから。

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