マトリックス リローデッド |
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「マトリックス リローデッド」は、難解な映画と思われている。確かに、聖書、ギリシャ神話、種々の映画、アニメ、小説からの引用であふれている。しかし、逆にそうした、引用をたどったり、劇中に出てくる象徴の意味をたどれば、わかりづらい部分も、実は象徴的には説明されていることに気づく。 マトリックスについて、いろいろな視点からの考察が存在するだろうが、ここでは「象徴(シンボル)」という切り口で、解読を試みる。 |
第1弾 ネオは救世主なのか? ネオは、救世主なのか? 前作、および本作で提示される最も重要な謎。 でも、答えは出ている。 答えは、「ノー」である。 厳密に言おう。「現時点では、ノー」である。 まだ、世界を救ったわけではないので、救世主であるはずがない。 劇中では、「The ONE」(NEOのアナグラム)に、「救世主」の訳語が与えられている。しかし、これは少しわかりづらいし、誤解を招く。 「The One」を辞書で引くと、「選ばれし者、救世主」と書かれている。でも、それはイコール「イエス・キリスト」を指すからである。イエスは、すでに十字架にかかり、人間の罪を贖罪し再臨を果たした。つまり、人々と世界に救いを与えた救世主として確定している(キリスト教的には)。 ネオは、「有力な救世主候補」かもしれないが、現時点ではザイオンとそこに住む人間を救済していないので、「救世主」となってないのは明がである。つまり、ネオは将来救世主になるかもしれない、「選ばれし者」であるから「The One」という言葉が使われて、「Christ」「Messiah」と明確に区別されている。 「リローデッド」で「Messiah」が使われるの一箇所のみ。ロック司令官りセリフ。 「私はオラクルや預言者やメシアには関心はない。」 I don't care about Oracles or prophecies or Messiahs. この「メシア」は、一般論としてのメシアである。ネオとは全く関係ない。 新約聖書において「Messiah」(ギリシャ語のメシアス)は、わずか二箇所しか出てこない。ほとんどの箇所では、「来るべき方」「生木」などの、代用語が用いられている。つまり、「救世主」という言葉は、救いが達成された後の後世の人とたちが頻繁に使った言葉ということ。この視点からも、ネオのことを、劇中で「メシア」と呼ばずに「ザ・ワン」という代用語を用いているのは、リアルな描写といえる。 モーフィアスは、ネオが「The One(「選ばれし者)」であり、将来ザイオンと夢を見続けるサイバー人間を開放する「Messiah(救世主)」になるだろうと、強く信じている。救世主は、世界を救って初めて証明されるわけであるから、現時点で「救世主」たることを確信する彼の姿勢は、正に宗教である。実際モーフィアスの信仰は狂信的なようにすら受け取れる。 ロック司令官は、ネオが「The One(「選ばれし者)」であることを全く信じない。 評議員たちは、「Messiah(救世主)」であるかどうかはわからないが、「The One(「選ばれし者)」かもしれないという可能性は認めている。したがって、とりあえず希望を託して、ザイオンの救済をまかせてみよう、という立場である。 |
ネオが「The One」であることの証拠 さて、ネオが「The One(「選ばれし者)」であることを支持する証拠は、前作・本作で繰り返し描かれている。すなわち、イエス・キリストとオーバーラップして描かれている点である。ネオとイエスとの共通点を列挙する。 |
1 数々の奇蹟を起こす ネオはモーフィアスたちが太刀打ちできなかったエージェント・スミスと対等に戦い、それを打ち負かす(前作)。 |
「リローデッド」では、空を飛び、弾丸を空中に静止させる。そして、死んだはずのトリニティを蘇らせる。常識ではありえない、技を次々と行う。 イエスもまた、水をワインに変える、病者を癒したり、死人を蘇らせるなどの、奇蹟を次々と行った。 ・センチネルの破壊 以上のネオの奇蹟は、いずれも「仮想現実」内での行為である。しかし、「リローデッド」の最後では、襲い掛かるセンチネルを不可解な力で破壊してしまう。これは、物理法則を超えた奇蹟と言えるだろう。 ・増殖の奇蹟 スミスは、本作で他人に自分をコピーして増殖する能力を身につけた。これは、スミスがネオと戦う中で、彼が触発されて獲得した能力。ネオなしには、考えられない能力だろう。 増殖は、英語では「maltiplanation」。新訳聖書で「maltiplanation」と言えば、すぐに一つのエピソードを思い出す。イエスがパンと魚を増殖させた奇蹟である。すなわち、「増殖」は、救世主の行う奇蹟の一つということになる。 |
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2 エルサレム入城 人間がかろうじて生き残る地下都市のザイオン(ZION)。ZIONは、日本語では、通常「シオン」と訳されている。「シオンの丘」、「シオニズム」のシオンである。「シオンの丘」とはエルサレムの丘につけられた地名だが、「シオニズム」運動の象徴的場所であり、「シオン」は、「エルサレム」あるいは「イスラエル」と同義的に使われることが多い。 本作では、ザイオンは「エルサレム」である。 イエスは門を通って、エルサレムに入城した。 ネオたちは、やはり強固なセキュリティーのゲートを通り、ザイオンに入る。 |
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3 入城後の人々の歓迎 エルサレム入城を果たしたイエスは、彼が救世主かもしれないと信じる人々によって 歓迎を受ける。 ザイオンについたネオが、市民からの貢物をもらい、歓迎を受けるのはこれと見事に一致する。 4 イエスが選ばれし者であることを認めない人々 イエスは市民の熱烈な支持を受けるが、一方でイエスを選ばれし者と認めなかった人たちがいた。パリサイ派ユダヤ人たちである。パリサイ派ユダヤ人たちは、イエスは危険人物であるとローマ帝国の総督ピラトをそそのかし、結果としてイエスは捕まり十字架にかけられる。 モーフィアスは、ネオが「The One」であることを信じて疑わないが、ロック司令官はそれを全く信用しない。逆に、モーファイスとネオの行動を邪魔する。ロック司令官はパリサイ派ユダヤ人を象徴している。 ロック(Lock)司令官の語源。一義的には、「ロックする、鍵をかける」。さらに、「固定する、動かなくする」の意味がある。ナイオビが、ロック司令官に言う、「あなたには、変化がない」というセリフに通じる。 他のキャラクター同様、何文字か字を変更するパターンもあるとすれば、「Rock」(岩)の意味も含まれているかもしれない。エルサレムで「Rock」と言えば、「岩のドーム」を指す。「岩のドーム」は現在ではイスラム教徒の聖地だが、そこはもとはユダヤ教の神殿があった場所。現在の「西壁」すなわち「嘆きの壁」の場所にも一致する。「嘆きの壁」は、ユダヤ教の最大の聖地である。つまり、「ロツク」とは「ユダヤ教の聖地」のことであり、ロック指令官がバリサイ派ユダヤ人の象徴であることを、名前の面からも指示している。 |
さて、もう一つ語源を追加する。モーフィアスは、「ネブカドネザル」号の船長である。「ネブカドネザル」号は、ネオたちが乗っていたホバークラフトの名前である。 ネブカドネザル2世 「新バビロニア第二代王(前605−562)。アッシリアを退け、バビロニアの繁栄をもたらした。また、パレスチナに侵入したネコ2世のエジプト軍も破った。前586年、エルサレムから市民を強制的に移住させた(バビロン捕囚)。」 |
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バビロン捕囚は、ユダヤ人のディアスポラ(離散)の直接的な原因となる。つまり、ネブカドネザル2世はユダヤ人にとって憎い仇。 ロックとモーファイスが犬猿の仲であることが、「ネブカドネザル」号の名前に象徴的されているのである。 一方、ネブカドネザル2世は、バビロニア側から見れば、「失われた領土を奪回し、バビロンの大部分再建し、国内の神殿の大半を修復し、国勢の基盤を立て直した英雄」である。 このことは、ネブカドネザルのクルー、ネオ、モーファイス、トリニティたちが、失われた領土(すなわち人類がかって住んでいた地上)を機械から奪回することを暗示しているのかもしれない。 |
5 ユダの裏切り ユダの裏切りについては、説明しなくても知っているだろう。 裏切りと言えば、前作の「サイファー」である。悲惨な現実に直面したサイファーは、再びマトリックの夢世界に生きるために、仲間を裏切り殺そうとする。ネブカドネザル号に残った無防備なネオ。ネオは危うく殺されるところだった。ちなみに、「サイファー」は「ルシファー」に由来している。 |
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6 復活・再臨 イエスの救世主たるゆえん。それは、「復活/再臨」にある。十字架にかけられて、そのまま死んでしまい復活しなかったとしたら、"Only
human."に過ぎない。「復活/再臨」は、救世主の必須条件とも言える。 |
スミスといえば興味深いシーンがある。オラクルとネオが話していた公園に現れたスミス。その時、たくさんのカラスとともにスミスは現れる。これは、多分ワタリガラスであろう。キリスト教圏ではワタリガラスは邪悪のシンボルである。しかし、ワタリガラスは世界の多くの神話(インディアン、エスキモー、北欧神話等)の中で、創世主(世界の作り手)として語られている。 これは、スミスが新しい世界の作り手となる可能性を示すものである。 おそらくは、ネオと同一化したスミス(機械と人間の調和を象徴する)が、人間と機械の調和した新しい世界の作り手となる・・・ということだろうか? マトリックス(仮想現実)でスミスが増殖しつづけ、マットリックスを占拠することにより、新しいマトリックスの創造者となることを示唆するのか・・・。 |
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「1」の候補としてもう一人考えられるのは、トリニティである。「リローデッド」で心臓停止したトリニティは、ネオの心臓マッサージ(?)によって、奇跡的に復活。彼女もまた、「復活」の条件を満たしている。 ネオ+トリニティ=救済 すなわち、ネオとトリニティの愛の力が合わさって、ザイオンを救うということ。「マトリックス」における「愛のテーマ」から考えて、これもまた十分考えられそうな話だ。 当然、ネオとトリニティの子供が真の救世主となるという予想もできそうだが、それでは「リボルーション」で話が完結しなくなる。 |
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補足 「ゲート3」第3門からの入城 エルサレム旧市街は、高い塀に囲まれ7つの門がある。救世主は、黄金門を通りエルサレムに入城することが預言されている。「黄金門」は別名第七門と呼ばれる。 さて、ネオだちはザイオン入城を果たすものの、彼らが通ってきたのは「Gate3」である。第3門とは、「シオン門」のことで、ザイオン入城にはピッタリなのだが、黄金門ではない。キリスト教の象徴的視点から見ると、ネオが本当の救世主になるならば、「Gate 7」を通ってザイオンに入らなければいけなかった。だが、そうなってはいない。 だが、「リボルーション」で「7」の存在となったネオは、「第七門(Gate7)」から、ザイオン入城を果たすかもしれない。 ただし、オペレーターは「Gate3を通ってBay7へ」と言っている。一応、「7」という数字も登場している。
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